詩・モード  Z a m b o a  volume . 18
 
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 photograph : : ni-na 



   
「lives」の表紙みたいに 少しだけ足を伸ばして
1時間ほど電車に揺られてみる。
ひとりじゃない場所、でもひとりになれる空間。
休日の。各停。
がらんとした車内。もう春。
膝の上に川口晴美の詩集2冊。
 
こうして揺られていると 余分な音も思考も
窓を流れる景色と一緒にどこかに消え
詩の放つ鮮烈な匂いに包まれた私は ひとりになる。
 
どこへ?
詩の中の「私」が 自分と重なって
見た事の無い風景が、音が、ニオイが、感触が、「私」が、
どんどん私をどこかへ連れて行こうとする。
どこか。 どこ?
 
きっと このまま乗り続けていればいつか
私も、私の「廃墟」に辿り着くのかもしれない。
それを確かめたくて またページをめくり、
目的地を 少しだけ 延ばした。
 
 
text●ni-na 
  川口晴美特集
 
 
 
 
 
 今回の select contents
 
 ●特集 川口晴美
 ダブル/ダブル
 スコールを待って
 夜歩ク
 
 
新連載
 耀野口ミナリ
 INTO THE MIDAIR
 
 詩集刊行前・最終回
 ●北川浩二
 オンライン・ポエトリーブック











 photograph : : ni-na 
   
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 

ダブル/ダブル
 
 
 
わたしは死んでしまった。婦人用化粧室の薔薇色の床タイルに左頬をつけて。横たわり、そして死んでしまった。それとも横たわったのは、死んでしまったあとだったのだろうか。金色の蛇口が三つ並んだすぐ上に嵌込まれた横に長い鏡の中を、水平線へ沈む日のように、凝ったデザインの枠の下へ沈み見えなくなっていったわたしの顔。あのとき倒れていきながら、頬が床に届くよりはやくわたしは死んでしまったのだろうか。わからなかった。わかっているのは、生きていたときなら化粧室の床に肌を密着させるなんて耐えられなかっただろうということ。いくらそのタイルが真新しく、薔薇色がうつくしく、繰り返し消毒されて他のどんな場所より清潔に磨きあげられていたところで、知らない人たちの排泄したものが拭いがたくそこにこびりついている気がどうしてもしてしまうから。(死んでもイヤ。)と、そう言ったかもしれない。死んでも。ばかみたいだ。わたしは死んでしまった。わたしは汚物だった。化粧室の床のタイルよりもっと触れたくないものになって、わたしはここに横たわっている。わたしの死体をうすら寒く照らし出す天井の白色灯。鏡の中にわたしの顔はもう映ってはいないけど、倒れるとき蛇口をひねるひまはなかったから、手を洗おうとして出した水がまだ流れ続けている。洗面台の排水口へ吸い込まれるその水音にかき消され、わたしの唇の端と左の耳からは音もなく血が滴り落ちる。薔薇色のタイルの目地に沿って、膨らんだ先端を赤黒く輝かせながらゆっくり伸びてゆく細い血の枝。ドアを押して誰かがここへやって来たら、足下を見てきれいな幾何学模様だと思うだろう、あるいは珍しいモザイク・タイルだと。ほんの一瞬の間だけ。それから悲鳴をあげるだろう。高く長く続く悲鳴を。そのひとのハイヒールの爪先は、そのときすでにわたしの血に汚されているかもしれない。
あるいは、誰もやって来ないかもしれない。こんな、ひとけのない街路の果ての建物の婦人用化粧室には。誰も。だから、このドアに立ち入り禁止のテープがべたべた貼られることだってきっと起こらない。ドアの外は人声もなくひっそりしている。廊下にも誰もいない。深い青色のカーペットに覆われた長い廊下の先にあるエレベーターホールを抜け、眠気をさそう単調な音楽だけが低く聞こえてくるロビーにたどりついても誰とも擦れ違わない。わたしは、見つからないかもしれない。案内板を背にした受付カウンターの上に置かれてあるメモ用紙の束が空調のかすかな風にめくられてカサコソと音をたてている。いや、そうじゃない、メモ用紙は動いていない、重そうに吊り下がったシャンデリアの真下から地階へ向かってエスカレーターが動いているのだ。やわらかい床の奥深くまで斜めに突き立てられた刃物のようにエスカレーターが。カサコソと音をたてて。動いている。地下へ。地下へ。吸い込まれるようにステップに踏み出すと無人のロビーは急速にせりあがり、あの単調な音楽は薄められたジュースのようにあわく遠ざかって消えてゆく。婦人用化粧室の洗面台に水が流れ落ちる音も聞こえなくなる。地下へ。地下へ。エスカレーターは無音の地階へ、白々とした光に満たされたショッピングモールへ下りてゆく。そこにも人影はない。市松模様のある通路の両側にショウウィンドウの厚いガラスが冷たい崖のように続いている。ガイドブックとドライブマップを並べたわきに絵葉書のラックが置いてある本屋。財布とバッグの革製品の店。鮮やかな色あいのドレス・ショップ。宝飾品店。紳士用スーツと靴の店。アンティック・ショップには縁の欠けた陶器ばかり。誰もいない。花屋では大きく花弁を開いた百合から黄色い花粉がこぼれている。理髪店。写真屋。ブティックの正面に坐っている針金細工のマネキン。ドラッグ・ストア。誰も。高級クリーニング店。コピー屋。キャッシュ・ディスペンサー。いない。公衆電話――。通路の市松模様はそこで尽きる。自動ドアの向こうは暗い階段だ。非常口を示す明るい緑色が降りそそぐ位置まで来ると欠伸をするようにドアが静かに左右に開く。開く隙間から湿った土の匂いのする空気がなだれこんできて、入れかわるように外へ押し出されてしまう。なまあたたかい。立ちすくんでいるあいだに自動ドアは背後で閉まり、たぶんもう二度と開かない。暗い階段。壁に描かれている小さな矢印はいったいどんな意味なのだろう。ぴったり閉じたドアの向こうのショッピングモールから漏れてくる光を背に受けながら暗い階段を上ろうとすると遠くに出口が見える。四角く切り取られている黒いいろ。夜。夜の空。ふいに、暗い水を湛えた小さなプールへおそろしいスピードで頭から落ちていくような気がしてこわくなる。こわい。外へ。震える階段を、外へ、上る。四角い夜が開く。おおきく、開いていく。なまあたたかく湿った空気が濃くなり、夜の街路があらわれる。高いビルの側壁。明かりのない街灯。ガードレール。やがて階段が終わると、そこはなまあたたかく湿った夜の底だ。振り向くと何車線もの広い道の彼方にさっきまでそこにいた建物の中央玄関がぼんやり明るんでいる。あそこで、わたしは死んでしまった。開いたままの目に薔薇色のタイルを映して。そのまま、置き去りにした。捨ててきたのだ。離れて。なんて軽いんだろう。離れて、軽くなって、硬い舗道を歩き出す。見送る人はいない。通り過ぎる車の影さえなく、高架道路の上からもうつろな風の音が響いてくるだけだ。月も星もない夜の下には工事中のビルばかりが続いている。資材を積み上げた空地を過ぎ、抉るように地面を掘ったところに鉄骨が突き立てられている場所では土の匂いが濃く漂う。舗道にこぼれた土と細かな石を踏むと小さく火がはぜるような音。うれしい。うれしくて、枠組だけのビルにこもった金属の錆びた匂いを深く吸い込む。見渡すかぎりまっすぐに果てのない道に沿って、ひっそり死に絶えたようなビルの列。もしかしたら建てているのではなく、壊しているのだろうか。ビニールシートに覆われたこのコンクリートの壁は明日の朝には崩れていくのかもしれない。ばらばらに。するとビニールシートの端が揺れて誘うようにわずかにめくれあがり、気がつくともうその内側へ入り込んでしまっている。土の、土にまみれた木材の、木材に打ち込まれた金属の、匂い。地面は少し湿っていて触れるとやわらかい土に爪のかたちの窪みが残る。壁に触るとコンクリートはざらざらだ。喜びの痛みに似た指先の震えがとまらないように壁を撫でながら進んでいく。と、突然、そこに誰かがいる。誰かがうずくまっている。うずくまっていた誰かが立ち上がり、「なんだ」と掠れたような声がそこから発せられる。男だ。男の声だった。ジャリ、と土を踏む音がして汚れた頬と剥き出しの腕の筋肉が目の前に浮かびあがる。若い男だ。あ、あ。「わたしは死んでしまったの。わたしは死んでしまったの」。どうしてか、声が喉からあふれ、歌うように笑うように繰り返しこみあげてくる。そう、わたしは死んでしまった。わたしは。ひとりになった。なんて素晴らしいんだろう。それがどんなに素晴らしいか、もっとわかりたい。触れたい。土に、ざらざらのコンクリートに、わたしのじゃない皮膚に。ここにいる。ここにいるのだ。触れたい。あの婦人用化粧室の、開いたままの目に映っている薔薇色のタイルごと、わたしが粉粉に砕けるほど強い力で。崩れ消え去ってしまうまで。触れたい。男が近づく。伸ばした手が、もうすぐ届く。





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 photograph : : ni-na 

 
   
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

スコールを待って 
 
 
 
 辛いものが食べたい。食べたいと思ったのは久しぶりだ。吐きたいではなく食べたい、と。熱い空気のこもった一人の部屋を逃げ出し、目的もなく地下鉄を降りて日向と日陰を往復しながら本のにおいのする街を一日中歩いた。結局は何も買わなかったのに心地よく疲れて、涙がでるくらい辛いものが食べたくなって半蔵門線で渋谷へ出ようか、それとも都営線で新宿へ行こうか迷って、迷っているうちに食べたいきもちがあいまいに散ってつかまえられなくなるといやだなと思いながら歩いていたから、そのままふらふらと小さなタイ料理店に迎え入れられた。メナムのほとり。メナムというのは川という意味だと聞いたことがある。私は紙と活字の川を流れて、この岸にたどり着いたのだろうか。
 愛想よく笑って扉を開けてくれた男に案内され大きな丸テーブルにつく。ディナータイムが始まったばかりの店はまだ空いていたけど、丸テーブルの向かい側には一人で夕食を食べに来たらしい女の人がなにか麺類をたんたんと啜っていた。その口元に見とれていたら急にものすごくおなかがすいて、メニューに書いてある料理を上から順にオーダーしていきたくなるのをかろうじてこらえ、ビールとヤムウンセン(春雨のサラダ)とトムヤムクン(海老のスープ)とあさりのバジル炒めとグリーンカレーを頼んだ。伝票に書き入れながら男が、大丈夫ですか一人でぜんぶ食べられますかと言葉にはださず不安顔で問いかけてくるのに、にっこり笑ってみせる。たくさん食べるのには慣れているのだ、それからそれを吐いてしまうことにも。
 カップルが二組と若い女たちのグループが入ってきて、向かい合うかたちのテーブル席はすぐにいっぱいになってしまう。そうかあっちは予約席だったのかと考えているあいだに目の前にビールが置かれ、白地に青い模様のある小皿が何枚か運ばれてくる。見れば、あらかじめテーブルに置いてあった調味料入れもみな同じ白地に青の模様。抽象的な青の線をぼんやりなぞって、食べたいというきもちが危うく、けれどたしかに積み重ねられていく。ずっと、吐くことばかり考えていた。ダイエットしていたわけじゃないのに。しばらく前に女友達と飲んで帰って来て、飲みすぎたのか夜中に吐いたのがきっかけだったのかもしれない。あんなこと初めてだった。寝ていて突然もやもやと目が覚め、何も考えずにトイレまで歩いていって、うずくまった瞬間ああ私は吐きたかったんだと気がついた。耐えがたいほどの苦しさが爪の先から髪の一本一本にまでぎっしり詰まっていることにもそのとき初めて気がついた。やっとめぐりあえた恋人の頭部を抱きかかえるようにつるつるの洋式便器を抱きかかえると不思議にやすらいだ心地になり、ほんの少し顔を傾ければもうそれだけで体から苦しさのカタマリが迸り出ていった。頭が弾け飛ぶように真っ白になるあの感じをどう言えばいいのだろう。両膝にトイレの床タイルの線がくっきり残るくらい長いこと私はそこにいて、滲んでくる苦い汗と涙と涎で顔中どろどろになりながら荒い呼吸を繰り返し、それでも水を流すたびに胃の中だけじゃなく皮膚一枚裏側が何もないからっぽになっていくようで、快感だった。
 ヤムウンセンが運ばれてきたのでビールを飲み始める頃、丸テーブルの向かいで食べ終えた女が支払いに立ち上がる。扉を開けて出て行くときに隙間から見えた外は暗く、雨が降りだしそうな不安定な光が空に満ちている。あんな快感は他になかった。私は、クセになってしまったのだ。だけどその後は吐くことを期待してお酒を飲み続けてもただ昏睡してしまうだけで夜中に目が覚めることはなく、歯ブラシだけでときどきオエッてなっちゃうんだよねと笑った女友達もいるというのに私は便器に乗り出した格好で指を喉の奥に突っ込んでもいっこうに吐き気はやってこない。仕方なく、たくさん食べることを始めたのだ。もうだめだというところまで食べてから水を大量に飲み、洋式便器をやさしく抱けば簡単に吐ける。あの快感がやってくる。私は繰り返し繰り返し吐いた。トイレの床に半ば横たわってうっとり痺れるような痙攣を味わっているのが私の体なのか、からっぽそのものなのか、しまいにはわからなくなった。それが昨日。わからなくなって、涙が出た。それは吐くときに滲んでくる涙とはちがうような気がした。
 シャキシャキとつるんが入り混じったヤムウンセンは辛くてとてもおいしい。壺みたいなものに入れられ下から火で温められているトムヤムクンを小さな器に取り分け、赤茶色のスープを掬って飲むと酸っぱさと辛さが細胞の間へじわじわ染みる。さっきまで冷房が効きすぎていると感じていたはずなのに額に汗が浮かんできた。夢中になって、まるごと入った唐辛子もよけずに前歯で少しずつ齧っていく。ひりひりした感覚が舌先から喉へ、胃や体中へと広がるのがわかる。吐くために食べていたのは、どうせ吐くためなんだから味はどうでもよくて、スーパーで安売りしている賞味期限切れ間近の食パンやジャンクな袋菓子、とにかくはやく食べられるゼリーとか羊羹とかバニラアイスクリーム、山のように茹でたうどんにざっと醤油をかけただけでひたすら食べたこともあった。どうでもよかった。でもかわいそうだったかもしれない、とふいに思う。自分の体をゴミ袋みたいに扱ったことじゃなくて、どうでもいいものとしてゴミ袋に詰めこまれたあげくすぐに吐き捨てられ下水へ流されていった食べものたちが。アサリを一つ一つていねいに殻からはずして口に入れる。
 ナムプラーや香草の香りに包まれながら、咀嚼に少し疲れて顔をあげると、壁には何種類かの影絵が飾られている。たぶん神話を題材にしたものだ。どこか別の暑い国の首都で、国立博物館の閑散とした廊下の果ての埃っぽいガラスの向こうに、あの影絵に似た展示品を見た記憶が一瞬だけ蘇る。熱い湿気と排気ガスとしつこい物売りの声に疲れて逃げ込んだ館内にはほとんど人がいなくて、老いた男が一人ゆっくりした動作で土埃を掃き出していた。あれは、私の体のどこかのようにからっぽな場所。キオク。
 最後はグリーンカレー。やわらかいココナツミルクの感触の下にも辛さはふてぶてしく潜んでいる。降り積もった辛さに、体の中が、からっぽが、軽々と燃えている。ヤムウンセンもトムヤムクンもアサリのバジル炒めも、食べつくした皿には赤茶色の汁が残っていた。チャオプラヤーの水の色だった。それは今、私のからっぽな地平を弱々しく、だけど燃えるように流れ始めている。もうすぐ食べ終わる。ぜんぶ食べたら店の男はこっそり感嘆してくれるだろうか。想像すると可笑しくて、おなかがいっぱいで動きたくないけど、雨が降り出さないうちに帰ることにする。辛いものをたくさん食べた体を大切に運んで、吐かずに、行こう。部屋に帰ったら窓を開け放って、やがて降り出す激しい雨を待とう。





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 photograph : : ni-na 
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 

夜歩ク
 
 
 
夜中に
急に
甘いものが欲しいような気がして
きっとメロンパンが食べたいんだと思って
部屋着のままコートをはおってポケットに財布だけ入れ
コンビニへ行く
セブンイレブンのメロンパンは外側のビスケット生地が少し固めでおいしかったから
セブンイレブンへ行く 途中の路地で
抱きあっているカップルがいる
横をすり抜ける
ゴミ袋の横をすり抜けるように
セブンイレブンの自動ドアが開き
パンの陳列棚の上から二番目にメロンパンを見つけたとたん
何だかちがう気がして
食べたいのはこれじゃなかった気がして
買うことができない
仕方なく
明るい店内をぐるり一周し
セブンイレブンをあとにして
大通りを渡りローソンへ行く
ローソンで売っているベルギーワッフルがわたしは好きなんだ
思い出して バームクーヘンの並んだ隣に残っていた最後の一コを手にレジへ向かおうと
歩く 数歩の間に ベルギーワッフルを噛みしめたときの歯応えが
にじみ出る油っぽい甘さが ありありと口いっぱいに感じられて
全然ちがう
棚にベルギーワッフルを戻して
やっぱりメロンパンだったのだろうか
ローソンのメロンパンは売り切れている
沖縄黒糖ドーナツ、ちがう
チーズ蒸しパン、ちがう
六枚切り食パンを買って帰ってバターとブルーベリージャムを塗って食べてみようか
それともタマゴサンド でもおなかがすいているわけじゃない
何か ほんの少しでいいのだ
舌触りでもいい味でもいい わたしを満たすもの
カスタードプディング、じゃなくて、アロエヨーグルト、
手にとってはやめて
甘いものじゃないかもしれない
さらさらと口の中でこわれてなくなってしまうもの
ポテトチップス・コンソメ味、とんがりコーン、イチゴポッキー、コアラのマーチ、
でもちがう
わたしは何が欲しいんだろう
ここにはない
駅の向こうへ行く
電車はもう終わっている
食べるものじゃないんだろうか
郵便局の隣のファミリーマートの前で
電話ボックスの中の誰かが誰かに電話している
わたしも電話してみようか
でも誰に
ファミリーマートの入口には運び込まれたばかりの雑誌が並べられ
週刊新潮、アンアン、SPA! 近いような気もするけど
部屋に持って帰って一人でそれを読むのを想像すると
小さな活字がもっと遠のいていき
スーパーマイルドシャンプー、植物物語メイク落とし、(物語・・・・・・?)
紙コップ、パンティストッキング、乾電池、封筒、
わからなくなる
わたしは何が欲しいんだろう
でも
まだこの先にサンクスがある
あるから
いつかわたしの欲しいものが見つかるんじゃないかと
わたしの欲しいものはどこにもないんじゃなかと
思いながら
歩いていくことができる
コンビニがなかったら わたしはメロンパンが食べたかったと
思い込んだまま 夜に押しつぶされるばかりだったはず
だから
わたしは
夜の道を 次のコンビニの明かりへと歩き出す
歩いていく
ポケットの中で ぎゅっと手をにぎる






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詩集「EXIT.」より →購入できます
ダブル/ダブル』 
 
 
 


詩集「lives」より →購入できます
『タイ料理レストラン「メナムのほとり」 スコールを待って』 
『コンビニエンスストア 夜歩ク

  

 
 
 

 
 

 photograph : : ni-na 
 
 
 
 
 
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   2003.4.1