ザンボア
詩・モード 
Z a m b o a  volume . 10

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□□□□illustration : : ni-na 

 カオリンタウミ特集
kaorintaumi is not dead!

 
 僕の目の前に一冊の詩集が置いてある。
 部屋は少し暗くて(遮光カーテンを閉めているからだ)、
 僕はもう三時間こうしている。
 何も書くべきことが見つけられない。
 書くことがないのではない。
 書くべきではないことならいっぱいある。それを書くことは簡単だ。
 でもべらべらと喋って、いったいその後に何が残る?
 何も残らない。
 
 
 言葉がうわすべりしている文章を沢山読んだ。
 詩にも絶望しかけていたところだ。
 面白いことに詩をよく知っている人にほど、
 魂を相手にした詩よりも、技巧好きを相手にした詩が好まれた。
 技巧の限りをつくした詩が刺激的だった。
 技巧は理屈で分解することも、説明することもできた。
 もちろん人に見せるわけだから技巧は必要だ。
 そういう話をしているわけじゃない。
 でも技巧は時代と共に変わっていくものなのだ。
 詩はせまい場所だけでつくられていたから、
 現代のエンターテイメントにも、それから普遍性にも、
 まったく取り残されていた。
 詩はせまい場所にいる一部の技巧好きたちにしか、
 わからない代物になった。
 これが現代詩だ。
  
 これがいま、詩が誰にも相手にされていない、心に、魂に届かない、
 その理由。
  
 技巧の愉しみはそれはそれでいい。
 そういう詩や詩人がいてもいい。それは確かに必要だ。
 でも詩は魂の渇きを癒してくれる、
 唯一のものでもあったはずでしょう?
 あなたは今何を書いている?
 それは本当に必要なのか?
 あなたのその詩は光っているか?
 言葉は、言葉は語りかけているか?
  
 
 カオリンタウミ。
 晩年、彼はマディ・ストーン・アクセルと名乗っていた。
 そのせいで僕は、
 在庫切れしそうになっているこの詩集を見つけられなくて、
 ある人のおかげで僕はこの詩集を手にすることができた。
 夕方、宅配便で送られてきたその詩集を、
 僕は裸足で玄関の冷たいタイルに立ったまま梱包を破りすて、
 薄暗いなかで急ぐようにページを開いた。
 言葉が、その一行が光っているかどうか、早く確かめたかったから。
 待っていられなかった。
 悠長にソファにすわるまでなんかは。
  
 今回の特集(を掲載できるまで)にあたっての、
 ひとつひとつのエピソード、それは紹介できない。
 少なからず毎月苦労はあるものだけれど、
 僕は今回、一時、無断転載にどうスジをつけるのか覚悟までした。
 いろんな方のおかげで、
 結果としてきちんとしたかたちで掲載できることになった。
 カオリンタウミという人間のことは紹介しない。
 それは掲載する詩を読んでもらえばいい。それ以上は必要ない。
 詩も時間をかけて丁寧に選んだ。
 レイアウトはいろいろ考えて、
 この絶版になった『レデンプション・ソングス』の雰囲気を
 極力伝えるべく、その装丁を踏襲した。
 カオリンの言葉を必要としている人にストレートに伝わればそれでいい。
 残った人間の、それが願いだ。
 僕がこの一ヶ月学んだことは、
 目を開いていただけでは、もうなにも見えないということ。
 それから、人間を信じる心だ。

 

 text●木村ユウ


 
 
 
 
 
REDEMPTION SONGS

 
 
 

 
 
 

 
 
楽吉
 
 
 
月がまんまるというわけでもないのに
真夜中のキッチンで
君と僕は向かい合ったままじっとしている
 
 
 
テーブルランプ 時計の音
ゆるんでる影 トム・ウェイツ
静止した状態の中でさえ 素粒子の動きは騒がしい
 
 
 
理想を高くもちすぎて
才能をもてあそんでばかりいる二人
たっぷりと溜めをきかせて「これってバッド?」
そして終らないクスクス笑いが始まる「グッドだ」
 
 
 
最近ようやくわかったことがある
正直に語るためには信頼関係が必要だ
 
 
 
心はどんな物質でできているのか
君がいて 僕がいて いっしょにいる
それは何故かと誰かに問われたら
 
 
 
教えない 二人の秘密だ
 
 
 
アートにいたずらをしかけて
才能をもてあそんでばかりいる二人
いつも楽しいので当然お金はない
 
 
 
この世界は不気味で落ちつきがない
命の値段は変動するし
未来はほとんど決まっているようにも見えるが
本当のところは誰にもわからない
 
 
 
縁側でお茶をすするのはどんな気分だろう
そのとき何を思うだろうか
 
 
 
21世紀にはリュウチシュウのようになっていきたい
でもオズだけがリュウチシュウじゃないよねと
二人ともまったく同時に同じことを考える
 
 
 
そして色がゴダールのようならいいなと思った 
Kaorintaumi = MUDDY " stone" AXEL













 
 
□□BOYS

ぼくは図書館のロビーでうとうとしている
寝ぼけた頭で幼稚なことを考えている
言葉がどっかから降ってきて
人を救うなんてことがあるだろうか?
ふと気がつくとぼくのとなりに
絵本の表紙をじっと見つめ
ため息ひとつついてる子供がひとり
ねえ、きみのよろこびは何だい?
はっと顔をあげぱっと笑う子供
茶色い小さい靴をはいている
ねえ、話してみてくれないか
きみのよろこびは何だい?
・・・ピース、ピースだよ
そして走っていってしまった
小さな靴音と印象的な笑顔を残して
きっと古い写真の中ではぼくだってそんな顔をしていたはずなのに
いったいどこへ行ってしまったんだ
すんだ瞳を色褪せた写真の中に残して
遠くの柱の陰から顔を覗かせて
誰かがぼくを呼んでいる
さっきの子供だ
ねえねえ ここにいるよ
そうかい そうだよな ここにいるんだよな
思えば遠く来たもんだなんて めそめそしている時じゃないんだ
世界は危険に満ちているから 夢見ごごちは価値ある気持ちだ
だからぼくは こんなふうに 図書館のロビーでうとうとしているんだ
ぼくはもう一度その子を隣に呼び寄せる
ねえ こっちへおいでよ
ぼくのことをはなしてあげるよ
ぼくはたしかにすごく遠いところから来たんだ
何をしに来たか知ってるかい?
きみと同じだよ そう 君と同じさ
怪獣ブースカを探しに来たんだ!

 
ぼくは図書館のロビーでうとうとしている
寝ぼけた頭で幼稚なことを考えている
言葉がどっかから降ってきて
人を救うなんてことがあるだろうか?
ふと気がつくとぼくのとなりに
絵本の表紙をじっと見つめ
ため息ひとつついてる子供がひとり
ねえ、きみのよろこびは何だい?
はっと顔をあげぱっと笑う子供
茶色い小さい靴をはいている
ねえ、話してみてくれないか
きみのよろこびは何だい?
・・・ピース、ピースだよ
そして走っていってしまった
小さな靴音と印象的な笑顔を残して
きっと古い写真の中ではぼくだってそんな顔をしていたはずなのに
いったいどこへ行ってしまったんだ
 
 
すんだ瞳を色褪せた写真の中に残して
遠くの柱の陰から顔を覗かせて
誰かがぼくを呼んでいる
さっきの子供だ
ねえねえ ここにいるよ
そうかい そうだよな ここにいるんだよな
思えば遠く来たもんだなんて めそめそしている時じゃないんだ
世界は危険に満ちているから 夢見ごごちは価値ある気持ちだ
だからぼくは こんなふうに 図書館のロビーでうとうとしているんだ
ぼくはもう一度その子を隣に呼び寄せる
ねえ こっちへおいでよ
ぼくのことをはなしてあげるよ
ぼくはたしかにすごく遠いところから来たんだ
何をしに来たか知ってるかい?
きみと同じだよ そう 君と同じさ
快獣ブースカを探しに来たんだ! 
Kaorintaumi = MUDDY " stone" AXEL






 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
JUST LIKE A DRUM ドラムスコ
 
 
 
ドラムのようにドラムスコ かけずりまわって足バタバタ
ドラムのようにドラムスコ かけずりまわって足バタバタ
 
 
小さな波動 ひろがる波紋 心の周波数
超音波の領域では 鳥たちも 空高く踊る
 
 
あ!おやじの自慢のおんぼろHi-Fiから流れてるのは 力強い反逆の唄!
意味よりも先に 魂をひっ掴むもの 自然のメロディー 原始のリズム
ドラムのようにドラムスコ 目はキラキラで 口からは野生のさけび
かけずりまわって足バタバタ 思い余ってくるくる回り始めやがった
目が回るまで くるくる回る ドラムのようにドラムスコ・ロールだ!
母親が優しい笑顔で見守っている
 
 
□□□「ああ、わたしのドラムスコ、おまえがまだわたしのお腹の中にいた頃、
□□□□よくマヘリア・ジャクソンの唄を聞いたものだよ。その度におまえは
□□□□そのゴスペルのリズムに合わせて小さな足でわたしのお腹を蹴ってい
□□□□たんだよ。覚えてる?思えばその頃からおまえはドラムのようなドラ
□□□□ムスコだったんだね…」

 
 
 
 
そうなんです 誰だって小さな子供だったときがあるんです
そして小さな子供が体をばたばたさせてるその姿は
まるで動く芸術のように美しく、しかもどっか滑稽で笑っちゃいますね…
人間なんてもともとはそんな生き物なのかもしれません
だから どんな大人だって心の中にドラムのようなドラムスコがいるのかも…
優等生の心の中にいるドラムスコは
やっぱり窮屈な毎日を送っているのでしょうか ちょっと心配だ!

 
 
そして ついに今 優等生の20世紀が終わろうとしている
音をたてて崩れようとしている
それでも あら 時代の崩れ落ちるその音に合わせて 踊ってる奴がいるではないか!
やけに楽しそうに なんか元気いっぱいに
ドラムのようにドラムスコ 目はキラキラで 口からは 未来の祈り
かけずりまわって足バタバタ 両手広げ くるくる回ってやがる
目が回るまで くるくる回る ドラムのようにドラムスコ・ロールだ!

 
 
□□□ああ、我らが命よ!ドラムスコとともにあれ!
□□□ああ、ドラムスコ!我らの常識を切り刻んで リミックスしてくれ!
□□□おまえの新しいリズムで 思いきり楽しませてくれ!
□□□そしていつか大人になっても
□□□おまえのオリジナルなリズムだけは 忘れずにいてくれ
□□□ドラムのようにド・ラ・ム・ス・コ! Kaorintaumi = MUDDY " stone" AXEL














AQUALOOP

 
  
なんだかひどく悲しくなってその後すぐに死にたくなった
それから何年かたって
笑った
フェンスに腰掛け太陽のの下で汗をかきながら
幻の自由と自由の幻を同時に追いかけることができる
呼吸する血みどろのペイントで絵を描いた
筆洗いの中で歌う水彩絵の具の
ダウンな時にアップするなめらかな渦巻きを見た

 
  
 
 
 
 
 
そしてスプリンクラー
運動場のそこらじゅうからスプリンクラー
スプリンクラーの小さく激しい音のシャワー
ビバップを奏でるスプリンクラー
スプリンクラーの小さな虹

 
 
 
 
 
 
火の中を歩く氷のような子供の絵を描いた
筆洗いをぐちゃぐちゃかき混ぜた
こんがらかった色を見つめた
スプリンクラーが止まった
恐ろしい静けさと昼下がりのわずかな水たまりが残った
火の中を歩く氷のような子供の絵はなかなかいいできだった
悲しい場所でだって笑える
水しぶきのような透明になりたい  Kaorintaumi = MUDDY " stone" AXEL









 
 
 
 
 
 OUT OF SIGHT だらりといく悲しみをはねかえすために
 
□□□□□□□ふざけたまねしてだらりといく

心の中では全てがうまくいくように願いながら

□□□□□□□ふざけたまねしてだらりといく

ダリアの花が
だらりと降り注ぐシーツの上で...
 
 
 

ダリアの花が
だらりと降り注ぐシーツの上でテンポおさえ

□□□□□□□余韻を引きずりながらゆっくりと燃えている

見えないものん中にひそんでいる
風は頭の中で受け止める…
 
 
 
□□□□□□□□□□□□□□□□風は頭の中で受け止める

「何も信じなくていい
何も頼らなくていい
 
おまえのかけた迷惑のせいで誰が困るのかを知ればいい」

□□□□□□□その声は…いったい誰ですか?

□□□□□□答えはなく振り向けば風が吹いている

□□□□□□□□□□□□見えないものん中にひそんでいる

風は頭の中で受け止める
悲しみをすり抜けてゆく…
 
 
 
□□□□□□□□□□□□悲しみをすり抜けてゆく

□□□□□□□□□□□□光の粒子を確かに見た気がした嘘でもいい

生きていてもいいんだよと言っているような
物凄い景色を眺めていたい

□□□太陽はまだよく見たことはないけれど月ならよく見ていた

□□□□□満月が木の後ろに落ちていくのをひたすら見つめていた

□□□□□時間の感覚が完全に麻痺した瞬間

小さな風のさやけさに完全に同調した瞬間

□□□□□□□□□□□□悲しみをすり抜けてゆく

□□□□□□□□□□□□光の粒子を確かに見た気がした嘘でもいい

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□嘘でもいい

生きていてもいいんだよと言っているような
物凄い景色を眺めていたい
Kaorintaumi = MUDDY " stone" AXEL









 
 
RAMBLING IN THE RAIN
 
 
 
人のやる気を奪う空の下 容赦なく雨が降ってやがる
俺はまったくずぶ濡れで 雨宿りの場所をさがしてんのさ
ちょっと前なら 1ミリの隙もない管理と退屈でがんじがらめな毎日
一転して最近は 容赦なく弱いものに死を宣告する暴挙がまかり通るときた
結局 飼いならされようが見捨てられようが
どっちにしろ 約束された未来なんて初めっからないんだ
 
俺は雨宿りの場所をさがしてんのさ
雨がこれ以上激しくなる前に安全な場所に隠れたいんだ
ばかでかい広告宣伝板は未だに何かを買え買えってうるさいぜ
街のBGMは無責任なことばっか言ってうるさいぜ
安っぽい楽観論や「ポジティブです」ってやつがうるさいぜ
およそおめでたい嘘っぱちにはファックオフって言ってやるんだ
俺達をうんざりさせるマス・プロダクションは
こんな時代になっているっていうのに
いまだに何もなかった振りをして闇雲に突っ走れって言いやがる
一つの神話やら歴史ってやつが終わったってことを知らないのか?
それとも 一つの神話やら歴史ってやつが終わったからって
現実の時間や生活は続くってことを知らないのか?
 
俺は雨宿りの場所をさがしてんのさ
雨がこれ以上激しくなる前に安全な場所に隠れたいんだ
そこでもう一度 びしょびしょの服を乾かせたら俺だって
ちょっとは明るい話だってできるのに…
明日晴れたら大笑いさ ちょっと風邪ひいたぐらいで済むんならOKさ
とにかく! 詩人が病んでる時はその国も病んでいるんだ
これからはどんどん金持ちしか病院に行けなくなるらしいんだぜ
そんなことがどんどん増えて そのうちみんながブルースを歌い出すんだ
そうやって まるで絶望的な環境から素晴らしい音楽が生まれるように そして
素晴らしい音楽ががっちりとネットワークを作って何かを伝承していくように
犠牲になる事をかたくなに拒絶するための道具として
あのプリクストンの反抗的なレゲエ・ソングのように強烈な言葉を頼りに
 
俺は雨宿りの場所をさがしてんのさ
雨がこれ以上激しくなる前に安全な場所に隠れたいんだ
そこでもう一度 びしょびしょの服を乾かせたら俺だって
複雑な仕組みやいわれない伝統やうざったい美学なんかに惑わされないで
夜明け前の空にささやかな星を光らせることだってできるかもしれないんだ
明日晴れたら大笑いさ 太陽の下で大の字んなって寝るのさ
でも今は まだそんな未来はお預けさ
とりあえず 俺は雨宿りの場所をさがしてんのさ 
Kaorintaumi = MUDDY " stone" AXEL









  
 
 
 
 








 
 
楽吉のタイプライター
 
 
 
しとしと雨の夜 オーノー!

まるで飛べない天使たちの飛行場だぜ オーノー!

テレビに移ってるのはパラダイスよりも奇妙なウエスト・コースト オーノー!

俺の机の上には

フリーマーケットで君が買ってくれたオリベッティーのタイプライター!オーイェー!

たった200円で売ってたんだ いかしてるぜ オーイェー!

でもどーやってリボン交換するのか… ちょっと不安だぜイェー!

とにかくこれこそ金じゃ買えない幸せってやつだイェー!イェー!イェー!

ベイビー!幸せだぜ!

ベイビー!俺は最近思うんだ

もしも ボニーとクライドがうまいこと逃げ切って

どっかでかたぎんなって生きていたら どんな人生を送ったかなぁって?

やっぱり子供を生んだんじゃないかなぁ…

そんで 庭で遊んでる可愛いジュニアを部屋の窓から眺めて

結局幸せは金じゃ買えないってことがわかったよ なんて二人で語り合ったかもなって

俺たちに明日はない なんて明日のことを考える余裕もない俺が言うのもなんだけど

俺は今 明日にむかってうて!ってゆー気分なのさ

なにをうつのか?って そりゃもちろんこの200円のタイプライターさ

未来をこの手に掴むためにさ!文筆活動にはげむのさ!

なんたってオリベッティーなんだぜ!イェー!

今日から俺は自分の詩は全部ローマ字で書いたっていいと思ってるくらいなんだ!

ベイビー!わかってくれるか?それくらい嬉しいんだよ

いっそのこと本気で英語勉強して海外で活動するか

そしたらほんとにタイプライターで詩書けるもんな

そんなにうまくいくわけないなんて 言わせたいやつには言わせておけばいいさ

俺はただ 今っていうこの時にしか感じられないものを思いっきり感じていたいだけなんだ

オーベイビー!わかってくれるか?

ほしかったものは必ず自分のところにやってくるんだ!

オーベイビー!なんてこった!今わかったぜ!

タイプライターのことなんてもちださなくたって 今 俺の横には君がいるんだ!

オーイェー!

青い鳥を探しに行くっておとぎ話の意味がやっとわかったぜ!

そんじゃしとしと雨の夜があけたら 改めて 俺たちの宝物を探しに行こうぜ 
Kaorintaumi = MUDDY " stone" AXEL







 
   

REDEMPTION SONGS 1999 Korinsha Press
All texts copyright 1999 MUDDY"stone"AXEL
Special thanks to Kawaguchi Takeshi and
"incosan" "saikisan" "maedasan" "satousan" "abesan" and "kaorisan"
DEDICATED TO RINTAROU

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 

 
 
 


 
パルス・ウィーブ
つなぎとめたいもの、取り戻したいものがあります。 ‥‥同じように、
わたしにも。
 


耀乃口穰の連載『パルス・ウィーブ』第一回
 
 
先月、耀乃口穰(ようのくちみなり)さんが、
投稿からセレクトにランクインしました。
今月も投稿をもらったんだけれど、ラストまできっちり書き込まれていて、
Zamboaとしてこの詩人を大事にしていきたいと思いました。
セレクトで毎月、詩を載せていきます。
「鼓動(感情)を織る」という名の連載『パルス・ウィーブ』
いまのところ半年の予定です。
 
耀乃口さんは、僕は投稿を初めとする詩・コミュニティで見かけたことがないんだな。
僕の勘として、紙媒体でもネットでもそれはいいんだけれど、
あまりコミュニティに参加していない人の中に才能が眠っている気がする。
僕は文章ってブランド物だと思っているんですね。
耀乃口穰というブランドをつくるのにZamboaは協力していくし、
それはネットでのコミュニケートが苦手だと思っている詩人に対してもそうです。
掲示板に書き込みしなくてもいいし、無理に他の人の詩に感想言う必要もない。
フォームから良い詩を投稿してくれればいいんです。それだけ。
だいたい詩人だって芸術家なんだから、自分の詩がいちばんいいに決まってるじゃないか。
そうでしょ?
ブランド立ち上げたい人、お待ちしてます。 
text●木村ユウ

 
 
 

 photograph : : ni-na 
 

 
 
エコー

 
                     耀乃口 穰
 

薄明るくなだらかに
空はあたたまりはじめている
必ず目を開けていられるようにしたい
その時を見逃さないように
今から3秒後
瞳のおもてを晴れ間が滑ってゆく
まぶしさに目を細める
 
ぬかるみの上を歩くときの
跳ねあがる泥のあたたかさ
なつかしさ
さぁ ここまでいらっしゃい と
伸ばした腕をやさしくとって
引き上げてもらう、まぼろしを見る
うながす声が届くと
胸の内でかたく冷えていた
結び目は
不意にゆっくりとほどける
音もなくゆるんで…
いいえ ほんとうは少しだけ
小さな音がする
それはまるで
注意深く押し出すためいきのような
 
そのまままぶたに指をのせて
ゆっくり力をこめてもらうと
せわしない震えは引いていく
とてもありきたりだけれど
魔法のようだ
 
 
夕暮れのふちで目を開けると
何の夢を見ていたのかは
思い出せないのに
頬はべとべとに濡れて
しかも凍えている
触れて 探ってみて
ようやくそれに気づく
 
隠さずに言うなら
きのうもおとといもその前の日も
あなたが
すぐそこに来ていたことを知っていた
何度も戸をを叩き
揺さぶって
だけど
名を呼ばれたら
そのときわたしは軋んで割れる
だから息を詰めて
隅の暗がりに潜み
抱えた膝を放すことができない
壁は背に触れて
こうしている間も
きりきりと冷たい
 
冷たいまま眠れば
目覚めるときにはもっと冷たくなり
ちいさくうずくまったまま
やがて温度のない露になり
どこへも溶けてはゆけなくなるのだから
 
 
一歩進めば夜へと転げ落ちていく
その手前で わたしは
 
遠くへと誰かを
むせび呼んだあとのような
激しいめまいにとらわれている
 
今も

 















 photograph : : kimura you



 

  
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   2002.5.1