ザンボア
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 illustration : : I/Ong
 

 
 
 
 

 

select contents
 
 
さいとういんこ特集
 
詩ネマ「ウォーキング・オヤジ」→
 
マクドナルド君
 
ロープ!
 
よかった
 
悲しい時にちょっとへん
 
キティ
 
BE HAPPY
 
9月11日深夜もしくは12日早朝 
  ありがとう いやあ ありがとう

 
 
耀乃口穰の『パルス・ウィーブ』第2回

 
ビート・スペクター/クギミツアキラ

 
 

 
  さいとういんこ特集

すきっ。すきっ。すきっ。 
 
 
 さいとういんこがホームページで、
 “ すきっ。すきっ。すきっ。”
 と書く。
 おそろしくシンプルな日本語で書かれたその言葉は、
 なぜかきちんと詩に見える。

 もしアントニオ猪木が、
 “ すきっ。すきっ。すきっ。”
 と書いても、これは推測だけど、詩に見えない。
 
 
 詩が世間に通用しないというのは勘違いだ。
 
 詩が世間に通用しないのではない。
 通用していないのは、詩を書けているか以前に魅力のある文章を書けておらず、
 これは「詩」だからということを理由にして、
 文章作品としてのレベルの低さから目をそむけている、
 その甘い認識力が世間に通用していないというだけだ。
 
 詩が世間に届くインフラ、
 詩が世間に届くための広告媒体・プロモーション、
 それが不備だ、今足りないのはそれだ、
 詩をもっと宣伝していくことが必要なんです、という声を聞く。
 おい冗談だろ? と僕は思う。
 それがもし冗談じゃないのだとしたら、
 今の詩のレベルの低さを直視できていないんだろう。
 
 少なくとも資本主義の社会では、
 何かビジネスに結びつくことはないか、
 自慢の鼻をぴくぴくさせている人間など、そこら中にうようよいる。
 
 あなたが楽しみにしているテレビ番組、
 あれ面白かったよねえって話したテレビコマーシャル、
 道玄坂の気分のいいカフェ。
 気に入ったミネラルウォーター。
 みんなそういうビジネスの人間が関わって、やっと僕達の手に届く。
 
 彼らは――それがビジネスになって人の道に外れていなければ――
 それはなんだってやってくれる。
 ちょっと想像できないような額のお金もそこで動く。
 そのお金を実際に扱っていてもうまく実感ができないような種類の額だ。
 
 彼らにまったく相手にされない、詩。
 それはインフラがないから、広告する媒体がないから、
 プロモートしていっていないから、世間に届かないのでは全くない。
 ネットだ?
 紙媒体だ?
 詩壇だ?
 もうそんなくだらない、
 どうだっていいことはきれいさっぱり忘れたほうがいい。
 
  
 あなたが相手にしなきゃいけないのは読者、ただその一人だ。
 修辞に修辞を重ねて技法だけで詩をこねくり回したり、
 ネット詩コミュニティの「掲示板」で能書き垂れる時間があるなら、
 さいとういんこの
 “ すきっ。すきっ。すきっ。”
 がどうして安っぽくなんかならず、その字面がパワーを持ち、
 ストレートにきちんと響くのか、
 もう一度、考えてみたほうがいい。
 

 

 text●木村ユウ


 

 
 
 
 

 
 
 

 
 
マクドナルド君
__
saito inco 
 
 
 
20世紀の約20年の間
マクドナルド君は世界のスターだった
でも今は、けっこうつらい立場だ
ジャンクフードの代名詞みたいに言われてる
お客もずいぶん減ってしまった
でもね マクドナルド君
わたしは、まだ君を必要としている
知らない街に行って
大きな赤いMの文字を見ると安心するし
なんていうか・・・・
最後には君があるから大丈夫って思うと
冒険にも出かけられるよって気分になる
 
マクドナルド君
マクドナルド君
正しくはマクダーナルズ君。
 
ある嗜好を持つ人々にとっては
否定のスタンダードなシンボルみたいになってる
ブロッコリーのクリーム・スープを君がサーブしたところで
それは変わらない
 
せつない。
 
私だって本気でビッグマックを美味しいと思った時があったし
今よりもフィレオ・フィッシュが大きかった頃のことをよく覚えてる
ごくたまに午前10時前に君のところに行く機会の時には
何にしようってわくわくしたし
 
だから今夜ひと晩、君のために泣く。
そして明け方頃に
駒沢大学駅の上にある君に火を付けようと決めたんだ。
 
ごめん。
本当にごめん。
 
でも仕方ないんだ
君が燃えた跡地を畑にしてトマトを育てなくちゃならない
革命だから 青と緑の旗のもとに 環境保護革命
 
涙が出る
キスしてもいいかなあ
君のセックスはすごく・・・早かったけど、かわいかった
うそじゃないよ
 
ごめん。
ごめんね、本当にごめん。

 

 illustration : : I/Ong
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
ロープ!
__saito inco 
 

 
 
詩を書けばいいのさ
こんな夜には
だって自分が何のために生まれたか
知ってるって言ってたじゃない
詩を書けばいいのさ
こんな夜には
ぶつぶつと呪文みたいに
並べればいい
もういいかげん
いいかげんに
大人の女にならないと
また 泣くはめになる
また 泣くはめになるよ
 
そこは野原じゃない
真夜中のクラブでもない
ニューヨークでもない
生まれ育った家でもない
東京の目黒区のはじっこの
小さなアパート
 
誰も救ってくれない
誰もキミを助けられない
自分で自分を救いだすのさ
ロープ!
ロープ!
ロープたぐりよせて
前にもやったじゃん
わりと最近にさ
 
キミはセックスが好きなんだろ?
セックスしてくれるオトコが好きなんだろ?
フェラチオさせてくれるオトコが好きなんだろ?
だろ?
だろ?
だろ?
 
ちがうなんて言わせないよ
ロマンチック・ラブ症候群?
まあ それもあるよね
けっこう重症なんだって?
 
だけど 本当はちがうんだ
キミが欲しいのは
セックスする相手でもなく
ロマンチック・ラブでもなく
 
わかってくれる人
キミをわかってくれる人
混沌と矛盾した
くるくると回りっぱなしの
キミの魂を受け止めてくれる人
孤独を癒してくれる人
もう いいよって
だいじょうぶだよって
セックスじゃなく
抱きしめてくれる人
 
でも そんな人には
一生会えないかもしれないって
心のどこかで感じたりもする
生意気にもね 
でも まだ絶望してないことも
知ってるよ
 
世界には興味がないの
言ってたよね
世界を変えようとか
誰かを救おうとか
少しも思わない
まして人を癒そうなんて
そんなこと少しも思ってもいないのに
 
キミのまわりの何人かは
キミが強い女だと誤解したり
キミの弱さを見つけそうになると
フタをして逃げ出したりするから
キミは人に
どう自分を見せたらいいのか
わからなくなったりする
キミはキミで
自分のずるさや悪を
わかってるからさ
 
音楽が好きだったんだよね
本も好きだったよね
そして いつからか
詩を書き始めたんだ
 
仕方ないから
詩を書けばいいのさ
こんな夜には
 
泣きながら書けばいいのさ
こんな夜には
さみしい
かなしい
せつない
くるしい
ねむれない
こわい
そういうの全部を
まとめて ひっくるめて
見つめて書くのさ
自分で自分の人生を
おおげさに仕立てないように
気をつけながら
詩を書けばいいのさ
 
ロープ!
ロープ!
ロープ!
詩がキミのロープになってくれる
 
でもキミは
詩を捨てさせてくれる
「愛」なんかを
まだ求めてるんだろ
甘いな
甘いよ
ロープ!
ロープ!
ロープ!
 
ほら
早く
のぼれよ
ロープ!
手をのばして
ちゃんとつかむんだ
 
ロープ!

 

 
 
 

 

 illustration : : I/Ong

 
 
 
 
よかった
__
saito inco 
 

 
 
ラメ入りのマスカラを塗って出かけた
なんどビューラーしても
いうことをきいてくれない
短いまつ毛のおかげで
景色がキラキラ光って見えた
 
電柱も
アスファルトの道も
駅のホームも
改札機も
エビアンも
サイフも
酔っぱらいさんも
キラキラ光って見えた
 
わたし
自分が泣いてるのかと思った
でも泣いてなかった
よかった
 
きれいだな

 

 
 
 

 
 
悲しい時にちょっとへん
__
saito inco 
 

 
 
イトコが死んだのでお葬式があった
木の箱の中でイトコは本当に死んでいた
 
人生は誰にとっても不完全だけど
死は誰にとっても完全なんだ
 
お葬式の終わりごろに
私は突然 イトコの最後のセックスのことを思ってしまった
たぶん 未亡人になったイトコの奥さんが
遺体の髪を優しくなでるのを見たからだろう
 
人生で最後のセックスは
いちばん愛してる人としたい
 
いちばん愛してる人の
人生最後のセックスは
私が 完璧にしてあげたい
 
お葬式の時に
こんなこと考えるなんて ちょっとおかしいけど
私は子供の頃から ちょっと変わってるんだ
 
さよなら さよなら さよなら
きっと また会えると信じてる
 
悲しい時にちょっとへん

 

 illustration : : I/Ong


 
 
 

 
 
 
 
 
キティ
__
saito inco 
 

 
 
ハロー キティ
ピンクのリボン
ハロー キティ
大きなあたまの中は夢でいっぱい
 
キティ
今週は何回泣いた?
キティ
ダニエルとは最近どう?
 
キティ
外の世界は もうすぐ春で
まだ冷たいけれど やわらかな音楽みたいな風
陽差しの中にもオレンジの粒子がふえてるよ
 
キティ
それからすぐに 気がついた
目に見えないアレって本当にあるって
 
キティ
天使の金色の羽 見てしまったから
これから どうしたらいいか わからない
 
キティ
知ってるでしょ?
昨日、手をつないで歩いて
いつもどおり別れた
 
キティ
このままでいいのかな
いつかはどこかに たどり着くのかな
 
キティ
恋愛ってやつ
12才以上になるとするんだ
しなくてもいいんだけど
なぜかする人が多いんだ
 
キティ
時間ってやつ この星をぐるぐる回ってるんだ
それのせいで へんになっちゃう人もいたんだ
去年まで 今年からはいなくなった
 
キティ
セックスって素敵だけど
しないほうがいいんだ
そんな時もあるんだ
 
キティ
ダニエルは
どんなふうに
キスするの?キスはじょうず?
どんなふうに抱きしめるの?
最後まで優しい?
 
キティ
目に見えないアレ
どうしたらいいのかな
見えないけど見えるんだ
でも 見える人は少ないんだ
 
キティ
花をつみに行くの?
どこに行くの?
いっしょに行こうよ
 
キティ
鏡を見ると信じられないよ
ずいぶん月日が過ぎたんだって
 
キティ
女の子が若い女になって 
それから中年の女になって
そして年取った女になって
最後は死んだ女になる
 
キティ
そうそうバレエを見たよ
眠れる森の美女 きれいだった
キティも私の中から見たでしょ
水色のオーガンジーのドレス
きらきらのティアラ
 
キティ
あの時さ うん そう あの時
がんばったよね うん すごくがんばった
 
キティ
言葉には色があるんだって
キテイが話せたらピンクだね
リボンと同じ色
 
キティ
ブランコ好きだよね
空がななめ 地面もななめ
どんなにこいでも どこにも行けないけど
ふわってなるから カラダもスカートも
 
キティ
ピンクのリボン
いつまでもあたまの中は夢でいっぱい
キティ
私のあと また新しく生まれる女の子と
暮らすの?
 
キティ 誰かの足音が聞こえる
キティ 声も聞こえる
キティ 電話が鳴ってる
ハロー?キティ? キティ? 
サンキュ キティ
バイバイ キティ.....

 illustration : : I/Ong
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 
 
 
 illustration : : I/Ong

 
 
BE HAPPY
__saito inco 
 

 
 
悲しいことはぜんぶ終わったよ
ハッピーになろう
ハッピーになろうよ
テレビを消して空を見よう
携帯の届かない場所へいって
話をしよう
悲しいことはぜんぶ終わったよ
歌って笑ってハグして恋して生まれて死んで
幸せになろう
私はもう一生悪口を言わないし
人を批判したりしない
ちがう価値観の人と言い争ったりもしない
約束する。
それでも何か言いたくなったら
ウソをつくか好き嫌いだけを言うことにする。
そしてコンニチワとサヨナラとアリガトウをちゃんと言える人になる
 
悲しいことは全部終わったよ
たったいま わたしのなかで。
ハッピーになろう
ハッピーになるよ

 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 

 
 
9月11日深夜もしくは12日早朝 ありがとう いやあ ありがとう
__
saito inco 
 

 
 
あ・どこかで お祭りの音がする  あ・ね・どこかで お祭りの音がするよ
 
テロリストよ ありがとう
ブッシュよ ありがとう
あとで振り返れば
これはずいぶんステキなきっかけになった
 
戦争だよと言い、映画みたいと言い
なら、ブルース・ウィルスはいつ出てくるんだろうと思い
昨日の深夜の生放送には湾岸戦争時に飽きるほど見た顔が
突然10年分年を取って現れ、そしてテレビ慣れしていない新しい誰かが
「めくら・つんぼ・おし」とはっきり口にし、アナウンサーは一瞬絶句したけれど
番組の進行を止めて「おわび」のコメントを言うには事態は緊迫しすぎていたので黙殺されたのだった。
あのストライクのシーンを何度も何度も繰り返し放映するのはもう、やめてくれと思い
でもテレビのスイッチをOFFするわけでもなく。
 
テロリストよ ありがとう
ブッシュよ ありがとう
あとで振り返れば
これはずいぶんステキなきっかけになった
 
いやあ テロリストよ ありがとう
ブッシュよ ありがとう
おかげさまで歌舞伎町の火事も台風も外務省の不祥事もどこかに消えた
どこかに消えちゃまずいようなこともとりあえず忘れたりする
個人的にもいくつかの不祥事がないことになった
 
あ・どこかで お祭りの音がする  あ・ね・どこかで お祭りの音がするよ
 
やんなっちゃうぜと歌ってみる。わかんないよって歌ってみる。
あいつのあの顔あいつのあの言葉が気にいらないと歌ってみる。
大統領はパパといっしょにお出かけさって歌ってみる。
こわくてしかたがないから何か楽しいこと考えようと歌ってみる。歌ってみる。
自分だったら最後に誰に電話するだろうって思ってみる。思ってみる。
ねえ、祈ってよって頼んでみる。祈りは無力じゃないんだよって頼んでみる。頼んでみる。
人のことはいいやって弾んでみる。自分の気持ちと弾んでみる。
そろそろ真剣になろうって弾んでみる。弾んでみる。イマジンって。イマジンって弾んでみる。
冷蔵庫に今夜食べようと思ってる美味しいコーヒーゼリーが入ってるから
まずそれを食べることを第一目標にしようって決めてみる。決めてみる。
ディズニー・シーにも早めに行こうと決めてみる。
言葉や詩はやっぱり無力なのかと詩の投稿サイトのBBSに書き込んでみる。
いや、そんなことないですよと誰かが反論する。
じゃ、どうやってとは聞かないでいる。聞かないでいる。
 
こんなのはきらいだ
こんなのはいやだ
こんな地球はやめてやるっ
 
アタック・オン・アメリカとは見事なコピーだ
言葉には力があることを証明してる
 
マシンガン dadadadadadadada
I wish 100年後に世界中の武力闘争が消滅していますように
 
100年後じゃだめみたいだ
ごめん わたしは甘かった あの詩は甘かった
 
ブッシュはえらかったな
あの時 よく踏みとどまったなぁ
あのテレビ演説は見事だった
私たちの神はこれ以上の犠牲を望んでいない
話し合いを始めようって
ラディンもえらかったよ
山からちゃんと下りてきて記者会見をひらいた
私たちの神は重大な決断を下されました。
今では2人とも世界平和の立て役者だ
 
 
希望とは悲しみの涙が身体いっぱいになって
つきることなく目から溢れ出て空っぽになったあとで
それでも頭を上げて前を見て どんなに小さくても一歩 歩き出すこと
 
マシンガン dadadadadadadada
あ・どこかで お祭りの音がする  あ・ね・どこかで お祭りの音がするよ
 
テロリストよ ありがとう
ブッシュよ ありがとう
あとで振り返れば
これはずいぶんステキなきっかけになった
 
 
希望とは今よりも素晴らしい何かである
第三希望 希望がいらない素晴らしい今
第二希望 銀河に浮かぶ太陽と呼ばれる恒星をまわる地球と呼ばれる星にある
     この部屋でハーゲンダッツのストロベリー・アイス食べながら
     ふつうに大切に過ごすこと キミと
 
第一希望 世界を包む金色の光
第ゼロ希望 ある朝 目が覚めたら始まっている あるいは終わっている何か
 
キヨシローが必ずライブでいう
「ボクの夢は世界中から戦争がなくなることです」
私は言う 利己的に言う 日本に憲法9条があってよかった
すくなくても年下の男友達たちが戦死する心配はいまのところしなくていいから
私の大切な人が戦死する心配はいまのところしなくていいから
 
どうして戦争をするの?
それは両方とも自分がいちばん正しいと思ってるからだよ
いや、正しいことを証明したいからだよ 
それなら私も同じだ
自分がいちばん正しいと思っていて
それを無邪気に証明したがっている
 
第一希望 世界を包む金色の光が核爆弾であっても
第ゼロ希望 ある朝 目が覚めたら終わっている何かが人類の歴史であっても
 
こんなのはきらいだ
こんなのはいやだ
するすると縄を上って母親の穴に戻りたくなる
こんな地球はやめてやるっ
 
恐竜も絶滅したんだし
それと同じことでしょ
そう思えばずいぶん楽だなあ
 
あ・どこかで お祭りの音がする  あ・ね・どこかで お祭りの音がするよ
 
テロリストよ ありがとう
ブッシュよ ありがとう
あとで振り返れば
これはずいぶんステキなきっかけになった
 
 
テロリストよ ありがとう
ブッシュよ ありがとう
あとで振り返れば
これはずいぶんステキなきっかけになった
 
 
テロリストよ ありがとう
ブッシュよ ありがとう
あとで振り返れば
これはずいぶんステキなきっかけになった
 
あ・どこかで お祭りの音がする  あ・ね・どこかで お祭りの音がするよ
あ・どこかで お祭りの音がする  あ・ね・どこかで 本当のお祭りの音がする

 
photograph : : 新谷いくよ 
 
詩集『希望について』
 定価480円(税別)SPLASH WORDS
 注文はこちらから
 
リトル・エルニーニョ・レコード

さいとういんこの「おしゃべりな詩人」

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 


 
パルス・ウィーブ
つなぎとめたいもの、取り戻したいものがあります。 ‥‥同じように、
わたしにも。
 
 
 
 photograph : :
ni-na 
 

 
 
天気雨

 
                     耀乃口 穰
 

窓の下にひめりんごの木が植わっている
ここ何年も、まともに実ってはいないのに
葉っぱばかりがぼうぼうと伸びて茂る
その中にスズメバチが巣をつけた
前の日曜、それを最初に見つけたのは母親だった
 
鬱陶しくなってきた枝を払っていたとき
「大きなハチみたいなのに刺されそうになった」
と、指さした先には
ちょうど丸底フラスコをひっくり返したかたちの
小さな巣がぶらさがっていて
筒になっている先っぽが出入り口になっている
この時期のコガタスズメバチは
女王バチが一匹で営巣中なので
大きさも形もこのとおりだが
働きバチが羽化すると、どんどん膨れて
あの貝殻模様の、ボール状の巣になっていく
母親は「こわい」と首を振る
わたしは、役所に駆除してもらおうと答える
 
明けて月曜、市から職員がやってくると
この日すでにいくつもの巣を落としている
慣れた手さばきで
わたしが仕事に出ている間に片が付いてしまった
殺虫剤をうわっと撒いて、それから網で引っ掛けたのよ
そうしたら巣が地面に落ちて、ぱっかりと割れて
幼虫がでてきた と
興奮している母親から話だけをきいた
 
あと1、2週間もすれば
かれらはさなぎになり成虫になるはずだった
それはちょうど6月の半ばのことで
暑さと冷えと
晴天と雨天とが日々入れ替わりにやってくるころに
ひさびさの休みをもらってのんびりしていると
午後、にわかに空が真っ暗になって
はげしい雷雨になる
ふたりして
蜂と蜂の子を殺す相談をした木の下も
雨水が流れて川になる
 
ここから50メートルも離れていないところに中学校があり
雷が響くたびに
女の子たちがきゃあとさわぐのが聞こえる
10年前、わたしが通っていたときもそうだった
わたしは、にぎやかな輪を外から眺めていた
ひらべったい視線の女の子で
今も頬杖をついて
稲光から雷鳴までのインターバルを測っている
母親は、外が光り大きな音がするたび
びくっと身をすくませて、おそるおそる様子をうかがう
きゃあと叫びこそしないものの
そわそわとして落ち着かなくなる
こどものころ 家の庭の木に落雷があって
真っ二つに裂けて黒焦げになったのを見たせいだという
 
わたしがまだちいさかったころ
母親はわたしを自分と同じものを
おそれるむすめに育てようと
通り雨のたびに
脅したり騒いだりを繰り返したのだが
ことごとく裏目に出て、うまくいかなかった
そしてもうこの先わたしが
自分に似ることはないのだと
あきらめてからというもの
母はみるみるしおれて、まるくなり
1年ごと少女に戻りだしているので
いつかわたしが彼女を抜き去ってしまう日が
そう遠くない日にやってくるかもしれないと想像する
 
夕立ちの仕上げが明るい天気雨になることがある
一面がまぶしい中を
バケツをひっくり返したような土砂降りが
走り抜けていくことがある
それから
そのあとで街の上に虹がかかるのを 見ることもある

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 photograph : : ni-na 

 
 
 


  

ビート・スペクター
                  クギミツアキラ 
 

 
栗色のジャズマスター
第6弦で撃ち抜いて!
飢え渇いた可愛いフラミンゴがシャ・ラ・ラと唄うから!
神秘的な公園から 荒れ狂う幽霊船の動燃機関まで
埋め尽くした骸骨の階段を爆破してあげるから!
新天地はオイルの匂い まるでジュ-クボックスの敗残者
アメ色の繊細さ ひと絡げにして追い込んで
物質主義的皮膚感覚で 最後の光線がショートする
知っている? 衝動列車の生まれの悪さ
それは六価クロムに由来する七月の亡霊
あからさまな預言書を 正当に改竄するために
屋根裏部屋の将軍のふりをして高尚な元素記号を説き明かす
まるで夜のモーゼ!
ビート尼僧の白い肌に十戒を刻むが如く
もしくは精神の熱病患者!
その体温の果てには灰色の雲が
中産階級の天使! それは儚げな流浪者!
異端の練瓦を貪るように嘆きの壁に落書きして昇華する
「高架鉄道に御慈悲を!」
「ドーパミン・キャンディーを一粒」
「何処へも通じない器官を通り抜け再びここへ...」
「唱えよ!讚えよ!Do-wa-di-di-di-di!」
艶めかしい電熱線の誘惑はやがて
僕を粗雑な製鉄所へと変えることだろう
背中を押し付けて渾沌とした検問所へ僕を連れていってくれ!
ただしそれは不確かな忠告ではなく
肉体の形容詞として速やかに導いてくれ!
有刺鉄線に絡まった枯葉で執り行われた儀式の一部始終を
不満気味の観念の覗き穴から捉え続けた眼
ただひたすらに存在の理由を約束してくれるのならば
自己の中性子爆弾 美しいボヘミアン
遠ざけたものすべてが荒れ果てた肉声として甦ることだろう
この虚ろな迷宮にも似た吐瀉物の上に
聖地の喪失を目指して進軍する盲目の車輪の中に
太陽と月の融合から生まれた自殺マシンのように
爆音を抱いた切れ切れの陽炎として甦ることだろう
打ちひしがれた疾走黙示録として
再びこの場所で甦ることだろう!








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   2002.6.1