ザンボア
詩・モード 
Z a m b o a  volume . 2

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 おんな文字。



 いったいどれだけの人が、
 木村信子さんの詩を読んだことがあるのだろう?
 詩は誰もが親しんでいるものじゃないから、
 ではもっと狭めて、
 詩を好きな人で木村信子さんを読んだことのある人は?
 あるいは、
 インターネットで詩を書いている人でも別にいいけれど、
 木村信子さんの詩、好きですか?

 実は僕、最近まで読んだことがなくて。

 メジャーなジャンルのクリエイターなら、
 いいものをみつけたり、好みの作家をみつけるのは、
 さほど困難なことではない。
 (好みの作家はみつからないか。
  それは恋人をみつけるようなものだから)
 だけど、あまりビジネスになっていないジャンルでは、
 いいものをみつけることさえむつかしい。
 ことに詩は。
  
 
 木村信子。
 この第二号では木村信子さんを読者に届けたい。
 木村信子さんの文字は可愛い。
 そして、とてもいい匂いがする。
 でも誰かが言った。
 音のない、夢をみているようだと。
 
 

 
text木村ユウ


 photograph : : JONA











 怖い場所
               木村信子
 
 
 
 水飴状になって流れてゆくと

 むこうから弟がなきなきくるので

 そんなおとなのなりをしてなんで泣いている

 と ひっぱたこうとしたけれど

 手がないのでもがいていると

 弟のからだにくっついてしまった

 ねぇちゃんはいつもそうやって

 おれをいじめてばかりいる

 じぶんばっかりこんなあまいみつになって

 と 弟はますますなくので

 しかたなし

 あれこれだましながら

 こどものころの話などしているうちに

 弟はうとうとねてしまったので

 わたしもひとやすみしていると

 きれいな女のひとがきて

 弟を起こしてつれていった

 あんなやさしげなひとがいっしょなら

 もう心配いらないとおもい

 すうすう流れてゆきながら

 

 おもいだしたのだ

 わたしがこれから行かなければならない

 怖い場所を












 
site
 木村信子さんの了解を得て転載しています。掲載元●http://www2u.biglobe.ne.jp/~norra/

 
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 photograph : : ni-na





二〇〇〇年二月一二日の
夕方から翌朝にかけて
何度も見た夢のこと
         河合マーク

 

箪笥の抽斗の中で赤ん坊が死んでしまった
(血は少量出ていた)
何度考えても本当のことだつた
僕の母親の所為なのだが
匿しぬこうと思えば出来るのだが
最終的に僕は出頭することにした
階段を降りようとすると足許に透明の
ビニル袋が落ちているのが気に留まった
何度目覚めても本当のことだった

  建国記念日の箪笥にひそむ嬰児の死










site
メールマガジン「週刊電藝」2001年8月6日号掲載

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 photograph : : JONA








トーキョー ナイト ウェーブ





去年の夏、
ネットで活動している詩人をスカウトするために、
僕はあちこちのメーリングリストやら、メールマガジンやら、
リンクコレクションの中をさまよっていた。

" Tokyo night wave "

そう名の付いた、これから創刊予定であるという詩のメールマガジンを、
僕は購読予約した。
「日常大した事件などなくても、人の感情は熱くて深くて静かに動いている。」
というキャッチがついて、
そのコピーに惹かれたのかもしれないし、
発行人の名が、もう会うことのない知人と同じだったという理由も、
或いはあったかもしれない。

僕はそのころ精神的に参っていて、
会社にも行かず、
送られてきた創刊号も第二号も、きちっと読む余裕がなかった。
少し目を通したけれど、その時の僕にはあまり興味もわかなかった。
そうして" Tokyo night wave "は、
読まれないまま僕のハード・ディスクにたまっていき、
十月の終わり、僕は三十二歳になった。

どうして玉村啓が、
僕にとって忘れられない詩人になったのか、
それを説明するのはとても難しい。
最後のマガジンが届いたとき、僕は少し泣いて、
この「指輪」という詩を、
いつまでも、ずっと眺めていた。

text
木村ユウ

















photograph : : JONA

「指輪」

                    玉村 啓 


今日 僕は指輪を買った

別に誰にあげるともなく買った

かわいくて素敵なものだったからだ 

裏を見るとムーンストーンと書いてあった

 

 

最近夢で 受けた優しさのことばかり想い浮かべる

とても優しかったんだ

そして想い出しては後悔してる

優しい包まれるような笑顔で僕を見る

いつも僕を見て笑う  いつも

ふいなことばかりで 僕はびっくりし 

泣が出るほど楽しかった

いつも 待ち合わせの時には会えなくて会えて

待ちすぎた分だけ 幸せはうれしかった

 

 

どうしてあきらめなかったんだろう

あきらめられないことを あきらめないということほど

辛いことはなかった

 

 

今は いろんなことをあきらめた

夢を持ったけれど結局 あの時と同じ

それは自分からというわけじゃなく

だめだったから 仕方がなかったんだって

 

 

どうしてあきらめられなかったんだろう

努力なんかするより

あきらめる勇気が欲しかった

 

 

 

 

昨日 僕は指輪を買ってから それをずっと眺めている

その指輪をポケットに入れて
   
今日僕は会社を休んだ

 

朝御飯を食べて僕は昼前の 

人のいない電車に乗った

顔に 陽射しの揺れを 

昔 小さい僕が経験したように

繰り返し 強く浴びている

 

 

ちょっと僕はポケットから指輪を取り出して

片目をつぶって窓の光にかざした

 

 

指輪のムーンストーンに暖かい光が反射した

僕は目をつぶった  スコールのようだった

 

 

 

それからちょっと経ち 窓を突き抜けた光にある

外の流れる雲を見た

それはとても自然なことに思えた

 

 

 

 

いつか僕はきっと
 
想いをこめられるような人になれるのだろうか

 

はっきりと伝えること-----

そして、変われるよ、なんか  なんて言えるのだろうか

 

がんばれ がんばれって

新しい明日に変われるようになろう

 

 

そしてその指輪を僕は

もう あきらめよう

 

 
 








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 photograph : : ni-na









  
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   2001.9.1