ザンボア
詩・モード 
Z a m b o a  volume . 1

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 photograph : : kimura you / popoly

 まり
             谷川俊太郎 

 もしわたしまりだったら
 まりーってよんでほしい
 おおきなこえで

 きのうあなたはさがさなかった
 のいばらのしげみのなかの
 わたしを

 だからけさよんでほしい
 わたしはじっとうごかずに
 あなたのこえをきいている

 みつけられるのをまってると
 そよかぜがわたしのまるみを
 なぞっていく

 こころのなかでわたしははずむ
 わたしによくにた
 つきにむかって





詩にしかできないこと




映画、ゲーム、漫画、テレビ・ドラマ。
昔「ブンガク」が担っていた役割は、現在、
刺激的で、イージーで(あるいはゴージャスな)
他のメディアが担うようになった。
でもこれから、
これらよりもっと刺激的で、イージーで、ゴージャスなメディアが出てきたとき、
読者はもちろんそちらにお金を払うようになる。
文学なんか誰も読まなくなってしまったように、誰もテレビ・ドラマなんか
見もしなくなっちゃう時代が、必ず来るのだ。
レンタルヴィデオが普及して、映画館が潰れていったときみたいに。

小説のテレビ・ドラマ化。
テレビ・ドラマの映画化。
映画のゲーム化。
ゲームの漫画化。
漫画のノベライズ。またはそれらの全く逆のパターン。
「ブンガク=物語」はそのかたちを選ばない。
だけど、
ひとつだけ、ここには入りきらず、
奇跡のように手つかずのまま残っているものがある。
*

詩。


詩には、詩、だけには、
詩だけにしかできないことがあるのだ。

谷川俊太郎本人から送られてきた、
この「まり」という詩をさっきから僕はずっと眺めている。
谷川俊太郎さんが、ずっと" 詩人"であり続けてきた、その本当の理由を僕は考え続けている。
詩にしかできないこと。

---そして、
モニタで見る文学には、詩の形がいちばん合っているという事実。

このザンボアが、
読者と、それから" 詩人"たちの心に、
すこしでも光を射すことになればと願って。


                2001年7月31日深夜 自宅にて  木村ユウ


 

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(「まり」は詩ネマ化されます)











ひとつひとつのシリンダーには 26文字のアルファベットが刻まれていた。


短編小説の中に毒気や脅威を感じ取れるのは
好ましいことだと、
レイモンド・カーヴァーは言っている。
毒気。

垢抜けた文体と、もはや確信犯的な幼さの、
向こうにあるもの。

 photograph : : popoly



「 神さまのことば 」

              シルチョフ・ムサボリスキー 

 むかしむかし。
 偉大なる神さまは山とか森とか海とかアメーバーとか
 金魚とか象とか…ともかくいろいろとつくられた。
 そして神さまはバナナの出来にすっかり満足すると
 最後、蟹の足に肉を十分に詰め込まないまま
 ぐっすり眠りにつかれた。

 (以下、敬語省略。)

 そして何十億年かして神さまが目をさますと
 そこにはかわいい猿からどう変化したものか
 にんげんというぶさいくないきものが繁殖していた。

 神さまはにんげんの世界をのぞき込んでみた。
 そこには自分がつくってないものが色々あってびっくりした。
 種なしスイカとか野球とかコカ・コーラとかピルとか…

 なによりも神さまがびっくりしたのは
 にんげんたちのつかってる「ことば」という
 へんてこな模様だったり鳴き声だったりするものだった。

 自分のことを書いた本がベストセラーだと小耳にはさんで
 神さまはちょっと照れながら聖書を読んだ。
 するとそこには洪水をおこしたり火事をおこしたり
 身におぼえのないことばかり書かれていてむかついた。

 罪とか罰とか愛とか赦しとか…それってなんだろう。
 にんげんはさわれもしないものを
 ことばにしてつくれるらしいと神さまは知った。

 神さまは悔しくなってことばについて勉強した。
 ロミオとジュリエットを読んでちょっぴり泣いた。
 そしてその材料としてはアルファベットが26文字と
 オクスフォードの英英辞典が1冊あれば
 すっかり同じものがつくれるんだということがわかった。

 でも神さまは小学校もでてないので作文が苦手だった。
 わたしわ。と書き間違えるたびにむしゃくしゃして
 つい地震や洪水、雷を落としそうになった。
 こいつはいけない、とおもった神さまは
 ながいながいながい錠前をつくりだした。

 ひとつひとつのシリンダーには
 26文字のアルファベットが刻まれていた。

 かちかちかちとひとつずつ動かしつづけていると
 いつしかそれがカチリ!とひらいて
 ものすごいことばが生まれるんじゃないか?
 かちかちかち…全部の組み合わせを回してみることにした。
 どうせ自分は死なないから気長に
 それはいい暇つぶしになりそうだった。

 神さまは自分のつくった世界を見守るのも忘れて没頭した。






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 photograph : : takegaki naotarou
屏風に描かれた、黒雲。

余白が絵を活かす。
その空白は不思議なほど多くをあらわし、
絵全体を引き締めて、心地よい余韻を残す。
本物だけが持つ、ぎりぎりの緊張感。
すべてをそぎ落としていったとき、
言葉は既に、そこにあるのだ。








「 睫毛にさえ 」
              animika 


 雲の塊に顔を埋め
 昨日の雨で目を洗う

 できるだけ大きな雲
 できるだけ黒い雲

 明日の雨が降る前に
 今日の痛みは
 睫毛にさえ 留まらせない







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  photograph : : JONA















 オーバードライヴ

 

   photograph : : ni-na 



           
しけた顔はもうよせよ。
      
           まるでガキの頃の友達のように、にやりと笑う。
           ひりつく胸。
           こわれるんじゃないかっていうくらい走って、
           意識は体を越え、
           さらにオーバードライヴしていくあの感覚。
           忘れているのなら叫べばいい。クギミツアキラ、みたいに。

           「ヘイ! グッドモーニング・キング!」
 
 





「 君を待っている 」

                    クギミツアキラ 

 朝食のテーブルにのぼった目玉焼きの中         
 黄色い半熟海の向こう                 
 宇宙がアングリと口を開けている            
 君を待っている                    
 他の誰でもない                    
 君を待っている                    
 もし君が正装した近衛兵の一人だとしても        
 もし君が返却されたレンタカーを哀れんだとしても    
 もし君がプラスチック・スプーンをくわえたままだとしても
 もし君が最終列車を故意にやり過ごしたとしても     
 もし君が列の先頭に並ばされたとしても         
 もし君が無邪気であるために逮捕されたとしても     
 もし君が狂犬であり                  
  なおかつ世界一キュートな瞳をしていても       
 宇宙は待っている                   
 君の席は用意されている                
 今朝のコーヒーカップはとてもいかしてるだろう?    
 これが君のチケットだ                 
 盲目の天使たちが同行しよう              
 羽根を休めている間に                 
 腕時計をみっつばかり壊してしまえ           
 だって今日も明日には昨日になるじゃないか       
 幸福感に浸るのはそのあとでもいいだろう?       
 これからノイズは増幅するんだ             
 オルガン・ミュージック!               
 エプロン・ミュージック!               
 ヘロイン・ミュージック!               
 ナポレオン・ミュージック!              
 君は8時過ぎまでは英雄だから             
 特別にイチゴジャムの勲章を授与される         
 満場一致の決定                    
 見事なもんだ!                    
 海上空港のカウンターから               
 アイスピックの先端から                
 飛び立てる準備が出来ていれば             
 いつでもご自由にどうぞ                
 君に会えなくなるのは悲しいけれど           
 期限付きのパブリックイメージでは手に負えない     
 残された最後のひとつが君の席だ            
 トースト・スターよ!                 
 サラダボールの騎兵よ!                
 ABCとLSDよ!                  
 宇宙の口の中 泳いでいる               
 君を待っている                    
 他の誰でもない君を                  
 ガス式のプラットフォームのはずれから         
 そっと見送るよ                    
 虹色のインコと一緒に そっと             

 さよなら、グッドモーニング・キング!






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 photograph : : ni-na





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  2001.8.1