詩・モード 
Z a m b o a  volume . 13

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読み手の勉強が足りない。
これほど自己弁護に都合のいい言葉もないと思う。
勉強が足りないのは、読者じゃなくて詩人だ。
勘違いしちゃいけない。
 
もう一度僕は聞きたい。
あなたの詩が読者の心をつかむことができないのは、
それは読者が愚かだからなのか。
詩の読み方がわからないから読めないのだという言葉も
僕は聞いたことがある。
 
詩が文学の中でも特殊であり、
詩だけの読み解き方、楽しみ方を身につけろというならそれでいい。
詩がおもしろくないのは詩人個人の文章力が問題なのではなく、
詩自体にその原因があるのだというならばそうだろう。
ではこうしよう。
エッセイや、とても短い小説、
詩じゃない文章なら日記だってなんだってかまわない。
「読み方がわからないのだろう」なんて阿呆らしい言いわけの
できないジャンルで作品を書き、
それを読者に読んでもらうといい。
さあどうする。
 
もういい加減に自分の能力のなさを詩のせいにするのはよせ。
詩だから売れない、商売にならないとうそぶくのもよせ。
そういう言葉が、詩にどれだけの損害を与えているかを自覚しろ。
事実も直視できないで詩なんか書けるか。
 
text○木村ユウ
select contents
 
●特集・樋口えみこ
○ラブ・レター(しずかな夜 2)
○X線検査
○ちゅうちゅう
○手をつないで
○私のニオイ
○お墓まいり
○案内所で行き先を
 
●耀乃口穰の『パルス・ウィーブ』第4回


 

 


 photograph : : ni-na 

 
 
もうむかし、
産婦人科を出て交差点のかどの
ケーキ屋でイチゴショートを3つ
買って
坂をのぼって部屋へかえって
留守番電話のメッセージを聞きながら
平坦だねリズムって
3つとも食べたの
とてもお腹がへっていた
 
もうむかし、
あんたが誘ってくれた遊園地
最初で最後だったね
昼間ふたり外で会ったのは
楽しいか楽しくないかなんて
わかんなくって襲われるように
ジェットコースターに乗って
トイレで吐いたあと鏡を見たら
幽霊みたいな女が映ってた
やあ、
それでもあんたは抱いたんだ
 
年がずっと上だから
大人なんだと思ってた
かわいいひと、
情けない顔で言い訳をして
あたしががんばってて
さびしかったから
こどもができて
ほかの女と結婚したんだよね
信じたあたしもかわいかったね
 
いまはもうあたしあんたの年を越えちゃった
あんたはいつまでも眠ってる
あたしたちが夜を重ねた部屋の地下
ふかく、
もうむかし、
ケーキを食べおわっても
あんたが来ないので
変態電話の相手をしてやって
そうしてやってきたあんたは
これまで聞いたこともないような
やさしい言葉であたしを抱いたね
ボロボロな人形ほしいのかい
かわいいこ、
寝入ってた
太いくびにネクタイヲマキツケ
はちきれそうなお腹に足をふんばって
引いたんだ
そしたら
あんたはこれまで見たこともないような
切実な顔をして目をさました
口からぶくぶくって
透明な嘘がこぼれてきた
きれい、
もっと、
切ない顔を見せて
 
引いたんだ
 
もうむかし、
空はいつまでも黒くならずに
地球上の一点、愛らしい行為を見守っていたよ
引いたんだ足の間から血がいっぱい流れて
そのときはじめて私はイッたんだよ
 
嘘だと、思ってるの?
これはいま目の前にいるやさしいひとへの
ラブ・レター
逃げるなら
あと3秒、待ってあげる


 

 

 
 
 
腰が痛くなって総合病院へ行った
整形外科の先生が 結婚しているのですかと聞いた
レントゲンを撮るからなのだ
妊娠の可能性のある女性には注意が必要なのだ
だいじょうぶです と私は答える
(だいじょうぶ)
ブラジャーを上にずらして上着を脱いでください
技師さんは機械的でステキだ
でも脱ぐと私、機械じゃなくて
ヤッパこれ着てください
検査着に着替える
ズボンのベルトを外すヒュルルル
寝台に横たわり技師さんの指示に従う
右手を伸ばして
上にあげて
横向いて
膝を少し曲げて
もうちょっと曲げて
こんなところでなら私、言いなりになれる
乱れる検査着のすそを彼が直してくれる
スミマセン
息を大きく吸って
止めて、そのまま
素直な気持ちで
そのまま止まってしまいたい
ガシャ
さて、お次
いやだ技師さん私をこんなにして今夜どうとか言ってくれなきゃ
私、いつも負けまい
負けまいとして     
中身はこんなに
見たでしょ見たわね
もういっかい、してくれないかな
ハイ上向いて
脇見ないで
生きて
フツーに生きて
ハイだいじょうぶ
ガシャ
骨はキレイですとお医者さんは言った
確かに私のガイコツは美しかった
ガンバッテいるんだねガイコツ
優しいお医者さんは
ただの腰痛だからと眼をそらし
もうここへ来てはいけないと言った

 

 



 photograph : : ni-na 
 

 

 
 
ひかえめなあなたの
尖ったところを
口にふくんで
ちゅうちゅうしたまま
こと切れて
しまいたかったよ
 
朝がきて
啓発的なベルが鳴る
きょうのノルマ
詩を3ぺん
シリアス調、
乱射乱撃、
湖のように
友だちがいない、
私には詩なんて
書けないよ
 
だって思想がないンだもん
 
ちゅうちゅう
ちゅうちゅう
 
もう難しいこと言うのはヤになっちゃった
バカはバカらしく
もう喋るのも疲れちゃった
だって通じないんだもん
 
もうずいぶん前から通じてなかった
 
きのう泣いた
やわらかい雨が降った
いもうとが私のこと、えみちゃんって呼んでくれた
 
何を書けばいいの?
 
バナナを食べるときは
しゃがんで食べなきゃいけないんだぞ
ゴリラの規則
 
聞こえますか
 
私はあなたのことを知らないけど
口の中がいっぱいだから
喋らなくてすむ
 
ちゅうちゅう
おかあさんだっけ?
 
私、なんか、もらい忘れてきましたか
 
ああ、もういいんだって安堵できるような
言葉があなたの体内から
流れつかないかな
うそだよ。
うそって正直だね
 
ちゅうちゅう
大脳皮質に
ジリジリしたラベンダー色のミストが
しみわたってきて
その霧のむこうに初めての形が
はじまっていたようなんだけど
 
なんて言ったの
 
通じないんだっけね、私たち
つい忘れてしまう

 



 photograph : : ni-na 

 

 

 
 
 
246へ向かう住宅街の用水路沿いを帰りながら
いもうとの手をとった
僅かな驚きが一瞬のこわばりとなって伝わってきたが
いもうとはとられるままにしていた
ぎこちなさを振り切るように私は軽く手を振って
歩いた
黙っていた
 
 
おんなのひとの体に触れるのが私は苦手だ
胸にかかえられた記憶がない
それはいもうとも同じ
いつも私のあとをついてきてからだが弱くて
ジュースを飲ませればもどしてしまうし
湿った掌に握った硬貨はすぐに落としてしまうので
しかられるのはいつも私だ
私は早くにいもうとの手を放した
 
 
えみちゃんはわたしが肺炎になっても友達と遊んでいた
えみちゃんはいつもわたしの始めることに文句をつける
えみちゃんはわたしのつらさをわかってくれなかった
 
 
いもうとも私の手を放して遠くへいってしまった
 
 
だんだん暮れてくる
あの日、鍵のかかった病院の窓からいつまでも
手を振っていた姿を忘れることはない
ぼんやりと無表情になったその人なのに
機械のように右手がいつまでもいつまでも動いて
 
 
きょうの日が来るとは思わなかった
 
 
いっしょに電車に乗って
二子玉川の高島屋で買い物をした
家族、のために
いもうとをくるしめる家族はけれどいもうとの
寝台であり
それは私も同じ
 
 
高島屋の屋上でジュースを飲んだ
ペットコーナーから出てこないいもうとを迎えにいくと
一番奥の暗がりのインコのケージの前に立っていた
目を伏せるだいだい色の鳥の背に
しっくりと深い緑の鳥が嘴を小刻みに入れ
それらは飽きることなく羽繕いをしていた
いもうとは見入られたように動かなかった

  
ジュース、飲もうよ
 
 
口から出る言葉とわき出る感情のあいだには大きな
隔たりがある
一生のあいだに言葉に変換されないで終わる感情の
海のような果てしなさ
 
 
手をつないで
 
 
あなたを苛んだ
優等生のえみちゃんはここにいないよ
体も魂も売ってしまえる
私の手のなかにある
やわらかい手のぬくみ
そのたよりない
確かさに
ささえられているのは私だ
 
 
ごはん
つくって食べさせて
と、
いもうとがくちをひらく


 

 
 
お酒を飲んで人と喋って
汗をかいて家に帰った
上着を脱ぐと体育の後の匂いがする
ズボンを脱ぐと女の湿った匂いがする
シャツを脱いで
頭を洗わないでいると匂いがする
それに焼き鳥とヤニくさい
ブラジャーを外して
私の口は時々いやな匂いがする
それは困るんだけどパンツも脱いで
そのまま布団にもぐりこむと匂いが混ざる
狭い部屋の中で匂いがこもる
へんな匂いだけれど私の匂いだ
なまぐさいけど生きている
匂う私を抱きしめた
 
お酒を飲んで人と喋って
風に吹かれてあなたの部屋に行った
ドアを開けるとおうちの匂いがする
抱きしめると清潔な匂いがする
お風呂に入ったね
あなたの唇は植物の匂いがする
服を脱ぐと山に住む動物の匂いがする
脇の下もおへそもへんてこなところも
あなたの匂いがする
腕にかかえたあなたの頭に
鼻先を近づけると
まだ眠たいあしたの朝の匂いがする
あしたさよならが来るとしても
忘れないよ
あなたの匂いを抱きしめた
 
雨が降りだすと匂いがする
埃っぽい地面の匂いがする
クチナシの白い花の匂いがする
ネコのおしっこの匂いがする
小さな川の匂いがする
タコ焼き屋の匂いがする
病院の自動扉が開いて
やまいの匂いが足元を泳いでくる
小さな子どもが泣いている
熱っぽい肌と鼻水の匂いがする
懐かしい場所の匂いがする
それがどこだったのか
立ち止まって思い出そうとしたけれど
大粒の雨に叩かれて
匂いは行ってしまった






 photograph : : ni-na   contents / page top


 



 
 
 
 
 
 

 
 

 


 
 
母はバカな女だった
長くて真っ黒なアイスバーをしゃぶりながら子供の私は
卑猥な言葉を口にした
そうすると母にウケるから
その意味することに気づいた歳に
居あわせた人々の顔を思い出した
私は母を恨んだ
 
 
母は勝気でぐうたらで不器用でものをしらず恥を知らず
人の気持ちなどわからない人だった
父から言われるなりで言われたこともできず
けんかばかりして謝ってばかりいて
母といるとき私は道に迷わないようにいつも
しっかりしていなければならなかった
強盗が入ったら母は私を楯にしただろう  
 
 
母は子供たちには君臨していたが
統治は長く続かなかった
ドリフを見て笑っていたら死んでしまった
いやになる
 
 
母が早く死んでくれたので
私はいろんなことを学ぶことができた
 
 
愚かな母の統治の名残が
おとなになっていく私のきょうだいたちを
ひとりひとりだめにしていった
私はそのことからも学んだ
 
 
しかし、あきらめなければ
人は回復できる
ということも
いない母から学んだことだ
 
 
私はたぶん のたれ死ぬだろう
家族は遠くにいるだろう
 
 
けれど私は見るだろう
朽ちていく私の頭のまわりに
私の幼いきょうだいたちが座り
まだ若い父とたあいのない話をしている
そのかたわらにあなたはいて
むかしのように
笑って言うのさ 
ヤーイ、シンダシンダシンダー
 
 
  なんね、おかあちゃんたらそんなことばっかいって。
  あたまおかしいんだわきっと。ばかおんな。
  いっつもさいふにおかねたりなくて、あとからもって
  いかされて、あたし、はずかしくてしょうがなかった。
  のーたりん。ああ、いってみたかったー。
  やだっ、ブラシなげつけんでよー。ひすてりーおんな。
  いたっ、あ、花火、
  ホラ、浜で花火あがっとるよ、
  くちべにぬってやるわ、あきいろしんしょくだって。
  きれいにおけしょうしてさ、
  いっしょに、みにいかん?

 

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案内所で行き先を
雨なので
持てあましていたら
そばかすの頬の男の子が賢治資料館なら僕の、
車で。バスはいま出たばかりだよ
あかるい色の藁くずを積んだ
軽トラの荷台に ちらと笑って
きみは きみ、なんて似合わないけど
全然似合わないけどドアを開けてくれた
 
きみは二十歳になったばかりで
島根から自転車でやってきた
冬までに北海道へ行く
牧場で稼いで
きょうは休みなんだ
よくクルマ貸してもらえたね
貴重品と引き換えだよ それにしても女の人に
声かけたのって生まれて初めてだ
きみは自分のことで頭がいっぱいで見えない
未来にクラクラしている 私は好きだよ
 
パンのミミくださあいって店に入っていくのにも
慣れた と、はにかむとそばかすが浮き上がる
なにか俺おかしい 君が尋ねる
駅や公園で野宿しながら自転車をこぎ続ける日には
人恋しくてすすんで話しかけるようになった
本も読んだ賢治は好きだ それにしても女の人と
俺がしゃべっているなんて俺オクテだからねいつも
こうじゃないんだよ専門学校、牧畜の学校だけど
それまでずっとクラかったんだ
なぜ
あるとき ふっと
(ちょっと待ってよ)
あるとき ふっとこのまま終わるのはいやだ
って
 
どこまで行くの
きみは、考えている
あいにく持ち合わせがなくてふたりとも
ゆるんだ空気の資料館に半日座っていた
星の貼りついた琥珀色の建物へ
バスが次々と客を運び入れた
私たちの前をたくさんの人間の
吐息やつぶやきが流れていった
ほんとうに俺、変わったと自分でも思うよ
私はそんな声をいつまでもきいていたい








 photograph : : ni-na 






いかがでしたか? 
解説も何もいらないと思います。
 
樋口えみこさんが主宰する
『ぺんてか 言葉の処方箋』
ネットで信用できる詩サイトというと、ぺんてかは外せません。
いま見に行ったら「変態お断り」とか書いてあって、
つい笑ってしまいます。


 
text●木村ユウ



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つなぎとめたいもの、取り戻したいものがあります。 ‥‥同じように、
わたしにも。
 

 photograph : :
ni-na 
 

 
 

 
                     耀乃口 穰
 

一  深夜
 
 
 深夜 水を飲みに降りた台所で
 ごきぶりを踏み殺す
 足元が暗かったので仕方がない
 夏はそういう生き物がふえるのだし
  
 土踏まずに
 断末魔に吐きだした泡と
 殻を踏みつぶしたときの
 (くしゃっとした)
 感触が
 残っている
 死骸をどうにかしたいから
 包むものを探して戻ってきたら
  
 いなくなっていた
  
 背を割られて
 それでも即死ではなかったらしい
  
 今夏殺したごきぶりは これで三匹目になる
 
 
 
二  屈折した仕返し
 
 
 かつて
 一切合財が好きだったかもしれない男の
 今は匂い「だけ」が好きよ
  
 その声も、すがたかたちも、コトバも
 すべてを切り捨ててしまって
 いまは 匂い「だけ」好き。 と
 ときどき奥から引っ張りだしては
 鼻先を当てて、たしなんでみる
  
 もっと気が向いたときには
 それを 丸める。 引っ張る。
 風にあてる。 光に透かす。
 しわだらけになったものをプレスして
 またたたんでしまいこみ
  
 定期的に水にさらし 漂白する。
 
 奥から引っ張り出して、たしなむ
 今では匂い「だけ」が好き。 と
 
 
 
三  色気のない食事
 
 
 昼
 どういう風の吹き回しか
 職場の同期のT(男性)と一緒になった
  
 Tの提案でカレーを食べる
 さらりとしていてちょっと酸っぱいような
 かなり辛いものだ
  
 さて
 色白でひょろりとしたTは汗かきだ
 汗かきを自認するわたしよりももっと汗かきだ
  
 わたしは食事のペースが速いので
 「暑ぅ」「暑ぅ」と
 汗をぬぐうT(なかなか皿の中身が減らない)を尻目に
 淡々と食べ終わり
  
 仕事に遅れられないので
 先に店をでた
 
 
 
四  35℃
 
 
 35℃の晴天の下で
 七月中に泳げるようにならなかった生徒たちが
 補習を受けている
 水泳教室の
  
 水と消毒塩素の匂いが流れてくる
  
 (水に浮かぶのは難しくないよ)
 (泳げるようになるから試してごらん)
 
 わたしは
 走ることも跳ぶことも苦手で
 いつもとろとろとしか動けなかったが
 それでも泳ぐことだけはできた
  
 かきわける手足の
 フォームの正しさはともかく
 平泳ぎで五十メートルを
 沈むことなくゆっくりと泳ぎきったのだ
  
 でも
  
 本当に泳ぎ着きたい場所には
 届かない
 いつまでも辿り着かない
 
 見上げれば高くたかくめまいをおこすような
 積乱雲の眩しさの下で
 わたし
 陽炎立つとおい沖へと泳いでいく夢をみている

 


 
 
 
 
 
 
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   2002.8.1