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  1.レトリック(比喩)について
  2.
オブジェも知れ
  3.
笑いについて
  4.
ことばの色について
  5.
言葉の力
  6.
噛み切れない眠り
  7.詩歌とラップ



 
 
 
 
   
 
 
ことばで表現する色とはなんだろう。
例えば「青いそらに白い雲が浮かんでいる」ということばから想像できる色は青と白の2色のみで他の色は想像できない。
本当に空の色は青なのか、あるいは雲の色は白なのか、あなたは真剣に考えたことがあるだろうか。わたしは空の色も雲の色も、その日その日でまったく違う色をしていると思うのだ。
「空は青い」「雲は白い」と決め付けてしまうことは大人の固定観念であるはずだ。
 
例えば、園児に空と雲を描かせたら自由な色を使って描くだろう。
「空は青い」「雲は白い」というような、色を固定してしまう安易な表現は詩作をはじめたばかりの人に多く見られるが、かなり詩作を重ねられた人のなかにもまま見られることもあるほど、なんのためらいもなく普遍的に使用されていることに驚愕する。
色を絵の具の基本色に限定してしまって、詩のなかに使用することほどばかげたことはない。
 
わたしはそんな詩を目にすると、もうこれ以上まったく読みたいという気が起きなくなるのだ。
 
もちろん第一回の「レトリックについて」の暗喩での「黒い傘」のようにイメージをわざと固定するために使用する場合もあるが、ほとんどはただ風景や情景描写に「白」「青」というように安易に使用している場合が多く、とくに「白いページ」「白い雪」「白いシャツ」「青い海」「青い風」「青い空」「赤い血」「赤い糸」といった歌詞によく見られる常套的な”思わせぶり”な色の使い方には本当にうんざりしてしまうのだ。
 
いったい「白」「青」「赤」etc・・というように、限定した色になんのイメージを膨らませられるというのか。
ただイメージの貧困さを露呈しているだけではないのかと言いたいのだ。
 
ではことばで色はどのように表現すればいいのか。上の文章を参考にすれば「そらに雲が浮かんでいる」だけで充分ではないだろうか。
「そら」にも「雲」にもすでに色のイメージが内包されており、それだけで充分多くの色の情報を読み手に伝達しているからだ。
 
川崎洋さんの「夕焼空よ」という詩の最終連。
 
夕焼空よ
枯葉散る野外音楽堂では 
巨きく太い黄金の管にまきつかれた
チューバ吹きなどが
頬をふくらまして
気まぐれな約束をまもるのに一生懸命だ
 
 
読後、この詩のなかにはなんて多くの色が表現されているのか驚いてしまう。赤や黄色に彩られる枯葉。黄金色に輝くチューバ。
紅潮するチューバ吹きの頬。
これらは単色ではなく、無数のグラデーションに変化する季節の色そのもである。
さらに紅潮するチューバ吹きの頬は茜に染まる雲でもあり、巨きく太い黄金の管は夕焼空に反射する太陽の残光をレトリックしているものでもある。刻々と、しかも気まぐれに変化していく夕焼けの色をなんと上手に表現しているのか。
ここには確かに色を限定しない秋の日の暮れゆく空が抒情豊かに描き出されている。
 
また日本には昔から伝えられてきた、日本独自の色文化がある。
北原白秋の「城ヶ島の雨」という有名な詩の冒頭に
 
雨はふるふる城ヶ島の磯に
利休ねずみの雨がふる
 
 
というフレーズがあり、「利休ねずみ」は茶人千利休の愛した緑がかったねずみ色のことで、雨にけむる城ヶ島が薄ぼんやりと緑に霞んで見えているさまは、なんという詩情あふれた情景描写ではないか。ここには日本独自の色文化を内包した詩があるのだ。
 
小学館の「色の手帖」には240色にもおよぶ日本の色が紹介されており赤色だけでも貝紫(かいむらさき)、韓紅(からくれない)、真紅(しんく)、紅緋(べにひ)一斤(いっこん)鴇色(ときいろ)弁柄(べんがら)・・etcとなんと40色にもおよぶ微妙な色の違いが表現されているのだ。日本にはこんなに豊かな色文化があることを忘れてはいないだろうか。
 
詩作をしていて、色を文章に書くことはだれでもあることだがそんなとき、もういちど色のことを考えなおしてみよう。いま書こうとしている色を、もっと違ったイメージで表せないかとか、もっと違った色の表現はないかとか・・・そうすることであなたの詩作のなかにさらに豊かな情景を描写できるはずであるから。


 

 
 
 
 


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