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  1.レトリック(比喩)について
  2.
オブジェも知れ
  3.
笑いについて
  4.
ことばの色について
  5.
言葉の力
  6.
噛み切れない眠り
  7.詩歌とラップ



 
 
 
 
   
オブジェという言葉を知らない人はいないと思うが、
ではオブジェを説明してくれといわれて明確に説明できるでしょうか。
 

 
『香りのオブジェ』っていう芳香剤のCMを普通に見て「ただの置物」がオブジェだと現在では間違って認識されているが、実は造形そのものがオブジェではなく、オブジェというのはシュールレアリズムのひとつの技法であったわけです。シュールという言葉を聞いてそれだけで拒絶する人は、ここから先は読まないでほしい。 
シュール=難解なもの=読むのもいやだ というように考えている人にはこの講座は必要ないからだ。
しかし今あなたが書いている作品のなかにもシュールから派生したものが自然発生的に入り込んでいるという現状を知れば、ここを無視して通過するわけにもいかないはずだ。
ではどのような技法かというとシュールレアリズムはブルトンという詩人が今から八十年も前に「無意識下における遠隔イメージの融合」というようなことを提唱し、これをシュールレアリズムとしたわけですが、ここでいう「遠隔イメージの融合」こそがオブジェ だったわけです。
詩の世界ではシュールレアリズムというと、無意識下=自動記述方法ばかりが取りざたされていて、それこそがシュールだと思い込んでいる人も少なくない。
自動記述方法(オートマシスム)とは「考えずに頭に浮かんだイメージや言葉をどんどん書き出していく方法」で、これもシュールの技法ではあるが、この技法自体すでに使用する人もなく時代遅れの感がある。
 

 
では詩におけるオブジェとはなにか。
その概要はこうだ。
「遠隔イメージの融合」とは簡単に説明すれば「異質な物の組み合わせ」
のことで、井坂洋子さんの「制服」という有名な詩で説明すれば
 
 制服は皮膚の色を変えることを禁じ
 それでどんな少女も
 幽霊のように美しい
 
という最初の三行のなかに登場する《幽霊のように美しい》というレトリックの部分にオブジェの技法が使われている。ふつう《幽霊》はこわいもの。醜いもの。おどろおどろしいもの。で《美しい》ものとは正反対に位置する言葉である。ということは日常生活でめったに出会うことのない言葉の結びつきで、このことがオブジェ=「異質な物の組み合わせ」なのだ。
これは作者である井坂洋子さんが意図的におこなっている言葉のオブジェで、
《美しい》ことをさらに際立たせるために、醜いものの象徴である《幽霊》という言葉を使ったと考えられるからだ。
また、最終連の
 
 スカートの箱襞の裏に
 一筋こびりついた精液も
 知覚できない
 
という部分に《スカートの箱襞》のイメージ=清楚。折り目正しい。に対する《一筋こびりついた精液》のイメージ=不純。汚いもの。というイメージでのオブジェもおこなっている。そしてこれらのオブジェのように、その二つの存在が遠ければ遠いほど、読者が出あったときの衝撃は大きいといえるのだ。
 

 
「難解」な文と「不明瞭」な文は似ているようでまったく違うものだ。詩作をはじめたばかりの人が意味不明の「不明瞭」な文を書き、それを読み手にこれがわたしの詩でこの難しさが現代詩だと表示しても、だれからも賛辞は得られはしない。理解できない文には、もともと賛同など微塵もないのだから。
また読み方もわからないような漢字を多用し、これも詩だといっている人となんら変わりはない。
じゃあ難解な詩はいいのかといえば、けしてそうではないと思う。井坂洋子さんのようにやさしい言葉を駆使してひとつの事象を表現できれば、より多くの読み手に理解を求めることができるからだ。
もともと難しい詩なんて、だれも読みたくはないはずだし、いまどきそんな詩を書きたいともまったく思いもしない。
ただオブジェというひとつの技法を知ることは、現代詩がどのように歩んできたかを知ることもできるし、あなたの詩作にオブジェを上手く利用した新しいボリュームをもたせることも確かなことだと思う。
オブジェとは異質な物の組み合わせによる新しいイメージの創造であったわけです。
モーリス・ブランショは「シュールレアリズムの終焉から、その思想的表現方法は現在にいたっても脈々と魂のように受け継がれている」というようなことを書いている。
そして知らずにあなたの詩作のなかにも・・・


 
 
 
※オブジェの定義はダリの「シュルレアリズムの実験に現れたオブジェ」というかれの論文を元にしているが、今はコラージュやコンクレートとして細分化されている。

 
 
 
 


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