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  1.レトリック(比喩)について
  2.
オブジェも知れ
  3.
笑いについて
  4.
ことばの色について
  5.
言葉の力
  6.
噛み切れない眠り
  7.詩歌とラップ


 
 
 
 
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●詩の機能は「形象(意味)」と「音楽」であることはすでに先人の詩人により語られておりいまさら説明するまでもないだろう。日本独自の短詩型である短歌や俳句に於いてもこのことは「措辞」と「韻律」として要素化されており詩の機能は万国共通といえるようだ。
詩に於ける形象についてはいままでこのレクチャーによりその多くに触れてきているのでここでは省略するが、音楽についてはいまだ一言も語っていないこともあり、今回はこの詩における音楽の役割を紹介しようと思う。
 
●詩における音楽とはなにか。日本では詩の音楽性については前述の「韻律」として表現されている。この「韻律」はさらに「韻」と「音律」に区分されている。では詩に於ける「韻」と「音律」とはなんだろう。つぎの詩は萩原朔太郎の詩集『竹とその哀傷』のなかの「竹」という有名な詩である。
 
 竹
 
 光る地面に竹が生え、
 青竹が生え、
 地下には竹の根が生え、
 根がしだいにほそらみ、
 根の先より繊毛が生え、
 かすかにけぶる繊毛が生え、
 かすかにふるえ。
 
          以下略
 
この詩には多くの「韻」が使われていることは一目みればわかることだろう。それは「竹が生え」という言葉の繰り返しが生み出す音の響きである。これをローマ字表記すれば「take」が「hae」となりさらに母音だけ抽出すれば「ae」が「ae」となることがわかる。このように「ae」という母音の繰り返しが意図的に使用され言葉に心地よい音の響きを与えている。これが詩に於ける「韻」といわれるものであり、いまさら説明するまでもないとは思う。詩人 粟津則雄はその著書『萩原朔太郎論』のなかでこの「竹」の「韻」について興味深い論文を書いている。それは「繊毛が生え」という部分が韻から外れているということに注目している点だ。「繊毛が生え」をローマ字表記すれば「senmou」が「hae」となり母音抽出では「eo」が「ae」となり「韻」が崩れるというのだ。そこで粟津則雄は「繊毛」を「watage」と読むのではないかと推測したことだ。こうすれば「ae」が「ae」となり「韻」の繋がりが自然だというのだ。この論文が正しいか否かは別として詩を「韻」から見た場合の優れた論文といえるだろう。
 
●では「音律」とはなにか。これも説明するまでもないが俗に「語呂合わせ」といわれるもので「言葉の続き具合」(広辞苑)のことだ。日本には七五調とか七七調といわれる和歌や俳句の「音律」は有名だ。上記の詩「竹」でも「音律」は使われており、一行目の「光る地面に/竹が生え」の七字五字切れや二行目の「青竹が生え」の七字切れにより語調がリズムよく「音律」=「言葉の続き具合」を作っているといえる。このように昔から詩には音楽の要素が使われ、読者もそれを意識することなく、ただ心地よい言葉の響きとして感じててきたのだと思う。言葉の音や流れを心地よく感じさせることも詩作には重要なことなのだ。
 
●萩原朔太郎は大正から昭和の詩人だが、現在ここに「音律」について面白い現象がある。それは特にヒップホップのグループ達が作るラップの歌詞にその特徴が顕著だと感じるからだ。つぎの歌詞はKICK THE CAN CREW (キック・ザ・カンクルー)の「マルシェ」の一部だ。
 
 
 マルシェ
 
 今まさにノリノリの 
 元気モリモリの 
 色とりどりの 
 トリオ
 さらにのびのびと
 この飛び飛びの
 語尾と語尾を 
 つなぐ喜び
 七転び 
 浮き沈み 
 up&down 
 何べんだって 
 やってんだ
 てんぱってんなって 
 がってんだ 
      
      以下略
 
この歌詞を読んであなたはどのように感じただろうか。
ここには日本の和歌の伝統である「音律」が確かに存在している。
「ノリがいい」と言われるヒップホップ系の歌詞には「音律」が重要な役割を果していることを若者たちは身体で感じ取っているのだ。考えた歌詞ではなく身体から感じ取った歌詞で詠う。詩の「音律」も作ったものではなく、身体から溢れた音楽を詩に与えられたらどんないい詩になるだろうとあなたも思いませんか。


 

 
 
 



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