選者  カワグチタケシ http://www.geocities.co.jp/Bookend-Akiko/5466/
 
 
 

 
 
 
足首の冒険
    福田吹太朗
 
 
 
 
ある日
足首は言った
「私は 手首よりは
優れているんだぞ」と
足首は
次の日
さっそく冒険の旅に出た
 
その途上
やっぱり寂しくなった
手首に出会った
二人は仲間になった
一緒に冒険を続けた
 
手首 足首
手首 足首
手首 足首
足首 手首・・
 
結局
どっちがより優れているのかで
ケンカになった
手首と足首の掴み合い
取っ組み合い
そして
二人して谷底に転げ落ちてく
手首 足首
足首 手首・・
二人は絡まったまま
そうして
どっちがどっちの首だか
分からなくなった
手首が足首?
足首が手首?
もうカミにさえ分からない
奴らのロッコツをへし折ってしまえ!
 
−−−−−−
 
二人は虚しく
路上を歩く
家路に着く
足首を引きずりながら
手首をかきむしりながら
でもそんな中
ふと夕陽が斜めに差し
足首の肩に小鳥がとまる
足首は
微笑んで
ちょっとだけ強くなった気がした
足首よ
もう恐れるものなど何も無い!
 
こうして足首は
手首よりも低い位置にいる

 
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 

  みつあみ   内野里美
 
 
 
なんかつっかかるのよ
ひっぱってごらんなさい
ほらっ
ほどけないでしょ
でも
いたいのよ
ねもとが
すこしくずれてきちゃったわね
いまさら
あみなおすきなどないの
だけど

 
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 

  無口な少年の   松岡大輔
 
 
 
ついさっきまで晴れていた
と思ったら
もう灰が降っている
ところによって
車椅子の少年
はにかみもせずに
イチジクを噛む
その上に灰が
しんしん積もっていく
 
灰の上を滑走していくのは
乗り捨てられた
少年の車椅子
(少年は足で鼻をかみ
ゴミ箱に潜り込む)
潤滑油を髪に撫でつけて
(はにかみもしない)
ゴミ箱の底から
抜けた光は
白一色の環七道路
その尽きるところ
そこで彼は
タバコを吸わない
 
その上に灰が積もっていく
しんしん積もっていく

 
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 

  無題   豊原エス
 
 
 
今 聴かせて欲しいのは
ラブソングではなく
音楽室で何度も練習をした あの歌
手を離さないで どうか
 
人間はきっと
突然大人になどならない
優しく ゆっくりと時間を重ね
罪を重ね
戻れない長い道を それぞれの足で
勇ましく歩いてゆく
 
今は
私の身に起こった事すべて
無かったことにはならない
無視をしても
忘れても
無かったことにはならない
じゃあ連れていこうか
淋しそうにしていることだし
 
戻れない長い道を歩き続け
私は帰ってきた
私はここに帰ってきた
ゆっくりと 大人になって
 
生まれて初めて
ここに帰ってきて
次はいつ戻るか解らない
 
だから
今 聴かせて欲しいのは
ラブソングではなく
音楽室で何度も練習をした あの歌
手を離さないで どうか

 
 
 
 
作者サイト  http://kyoto.cool.ne.jp/esu/ 
 
 


 
 
 
 
 

  無題   遠藤コージ
 
 
 
いつもの店のカウンターで飲んでいると
神様はいつもの
古ぼけたコートでやってきて
そのコートも脱がずに
俺の二つ隣の席に座って
その店で一番安いビールを注文した
 
その日はやたらとご機嫌で
「これ、なんて曲だっけ?」なんてね
合わせてくちずさんだりして
まあ、それはつまらない
古いラブソングだったんだけれど
タイトルは…
俺も思い出せなかった
 
相変わらずの馬鹿話をしながら
いつもより少し速いペースで
いつもより少し多めに
ビールを何本か空けると
帰り支度をはじめたみたいだった
 
そして店のやつに「じゃあ」なんていって
ドアの所まで行ったんだけれど
何か思い出したように
急に俺の方を振り向いて
こう言ったんだ
 
「おい、忘れるなよ
全く人間てやつはどいつもこいつも
都合の悪いことはすぐ忘れちまうんだ」
俺が何のことか聞き返す間もなく
彼は一瞬、にやっと笑って
出て行ってしまった
 
まあ、いつものことだから
\気にもしなかったけど
もう、結構いい時間だったんで
俺も帰ることにした
さっきから誰も気にしていない
音楽はもう何周目かに差し掛かっていた
 
外に出て見上げると
駅前の電光掲示板では
例のニュースの続報が流れていた
こんな時間に誰が見るんだよ
なんて思ったけど
 
で、ちょっと目を移すと
ちょうど半分ぐらいになった月に
どっかで見た年寄りが腰掛けて
ギターを弾きながら歌っていたんだ
よく聞くとそれは例の
あのラブソングだった
 
その時急に俺は、さっき神様が
何を言っていたのか気が付いた
そう、俺は確かに忘れていたんだ
涙が流れてきて
それはいつまでも止まらなかった

 
 
 
 
作者サイト  http://www.pp.iij4u.or.jp/~kjed/ 
 
 


 
 
 
 
 

  行方知れずの丘の上   渕上 零
 
 
 
君はもし普段乗りなれた電車がある日突然
名も知らぬ駅の ありえぬ駅のプラットホームに
すべりこんだら 迷いこんだら君は降りてみるだろうか?
 
ボクは降りた事があるんだ
 
それは本当に見た事もない
どの電車マップにも出ていない駅だ
 
『行方知れずの丘の上』という駅だった
 
無人駅だったし 街には誰もいなかった
ただ街並だけがそこには存在していた
そしてボクはその街を知っていた
デジャヴなのかもしれないし
いつか夢に出てきた街なのかもしれない
確かにボクはその街を知っていた
 
そうだ!ボクの失ったものたちが
見事にそこに列んでいたんだ
 
ガソリンスタンドの水たまりにできた虹
木でできた電信柱 木でできた枕木の線路
なぜかガムも売っているジュースの自動販売機
20円で買えるガチャガチャ
 
 
エトセトラ エトセトラ
 
ケ・セラセラ ケ・セラセラ
 
 
あてもなく街を歩いた
たどりついたのは丘の上だった
丘の上から街を見下ろしていたら
突然一尺玉の花火が打ち上がった
ボクはなんだかワクワクして ドキドキして
そして悲しくなって 色んな事を一気に思い出していた
 
 
長靴を履かなくなった日の事
 
おじいちゃんがパパのパパだって判った日の事
 
ママが絵柄のとても綺麗なラベルのついたインクを集めていて
それをビリビリに破いてしまった事
 
蚊取り線香の形そのままのこげあとのついたジュータンの事
 
小学生になったばかりの朝 インコをつかまえた事
冬に硬くなって死んでいた事
 
東京のどこかでいなくなったシャム猫のジミーの事
 
クリスマスの夜に犬が死んだ事
 
クリスマスの夜 大ヤケドして救急車で運ばれた事
ママにもクリスマスケーキをとっておいてあげたかっただけなのに
クリスマスなんて大っ嫌いになりそうだった事
 
小さい頃ママの帰りが遅くて 一人で毛布にくるまって
モノクロの西部劇を真夜中観てた事
 
ファミコンが買えずスーパーカセットビジョンを
買ってしまい大失敗した事
 
桜の木の上でみんなでゼリーを食べた事
 
となりんちのごっちゃんが水の中に
ドライアイスを入れてみんなを驚かせた事
 
ミルクとオレンジジュースを混ぜたらヨーグルトになった事
 
トム・ソーヤの最終回を見のがして泣いた事
 
インドで小舟に揺られている時 ボクだけ
流れ星を見つけられなかった事
 
ママとボーイフレンドのジャマイカ人と井戸で泳いだ事
 
両思いだったカヨコちゃんが雨の日にいなくなった事
 
彫刻刀を手のひらに刺してしまった日の事
 
インドの鉄橋をママと渡っていたら
突然向かいから機関車がやって来た時
下の河には卵の殻が浮いていた事
 
ママがボクを置いて一人でアメリカへ行ってしまった夏休み
初めて生卵御飯を食べた日の事
 
江ノ島から茅ヶ崎まで歩いた真夏の夜の事
 
 
そして 渕上 零を選んだ事
 
 
エトセトラ エトセトラ
 
ケ・セラセラ ケ・セラセラ
 
 
オレは思い出を引きずって生きてくぜ!
 
センチメンタル万歳だ!!!

 
 
 
 
作者サイト  http://www.REI.jpn.ch/ 
 
 


 
 
 
 
 

  私芸術   青柳拓次
 
 
 
美しい異質
 
輝ける違和感
 
隙をつきあう間柄

 
 
 
 
関連サイト  http://bookwormweb.net/ 
 
 


 
 
 
 
 

  イスラマバードの童話作家   山崎円城
 
 
 
イスラマバードに童話作家が1人。
彼はアレンギンズバーグによく似ていた。
 
彼は言う。「ハチの視点になるといい」
 
「そうかい、じゃぁまずあんたを刺すよ」
 
そうオレが返すと、彼は苦笑いで席を立ち
パイントグラスにアルコールをなみなみ注いで戻ってきた。
「まぁ飲んでくれ、
でもどうせ刺すなら童話の中にしてほしいね。」
 
 
彼はウランについての童話を書いた。
そういえばグリーンピースがかつて彼の絵本を
タヒチを汚したシラクにプレゼントしたね。
 
でも田島シンジ(*)、残念だね。
君の移り住んだイスラマバードでも大きなキノコがあがってしまった。
 
オレは思い出す。
かつてオレはアラブの友人とアメリカ料理を食べに行き、
かつてオレはアメリカの友人とベトナムを旅した事を。
またフランスの友人とはインド料理を楽しみ、
ルーマニアの友人とは中華料理を。
そして田島シンジと
再びパキスタン/イスラマバードで出会いイスラム料理を味わうのを夢見ていた。
 
そう、オレ等はいまでもみな友達だ。
 
 
 
*田島伸二 「大亀ガウディの海」等で有名な童話作家。

 
 
 
 
関連サイト  http://bookwormweb.net/ 
 
 


 
 
 
 
 

  こえ   村田活彦
 
 
 
きこえる
こえきこえる
こえなきこえ
きこえる
 
ぼくのこえ
まちのこえ
よるのこえ
うみのこえ
 
うみをこえ
よるをこえ
まちをこえ
きみのもとへ
 
ON AIR それはただ空気のふるえだ。
エネルギー保存の法則ってやつだ。
 
あのこえ
このこえ
いきつぎつづけるかぎり
あのこへ
このこへ
いきとだえたあとのせかいへ
 
ぼくのこえ
まちのこえ
よるのこえ
うみのこえ
 
うみをこえ
よるをこえ
まちをこえ
きみのもとへ
 
きこえる
こえきこえる
こえなきこえ
きこえる。

 
 
 
初出  VOX anemone  (カセットテープ)
 
 
 


 
 
 
 
 



 
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