選者  カワグチタケシ http://www.geocities.co.jp/Bookend-Akiko/5466/
 
 
 

 
 
 
ナルシスの旅
    石渡紀美
 
 
 
 
月の雫がこぼれる晩
ナルシスは旅に出た
自転車に乗って
荷物はごく少なく 地図さえも捨てて
友達や なりかけの恋人も 後にして
 
たくさんのさよならでナルシスはできていた
その繰り返しだった
また新たな/いつもの旅立ちと変わりなかった
けれど ナルシスの目は月の雫で濡れていた
「ほんとうにきれいなものを探しにゆく」
ナルシスは心に決めていた
 
ナルシスは虚栄心と羞恥心という
相反する二つの心でできていた
それを自分で知ってもいた
いやらしさと恥じらいが
ナルシスのナルシスたるゆえんだった
 
なりかけの恋人のことを話そうか
といってもその人とは数えるくらいしか会っていない
二度目の朝 ナルシスは夢をみた
夢の中でその人は
髪の毛の抜け落ちたカッパのような頭をしてネギのみそ汁を食べていた
 
友達に関しても 別にこれといった感慨もなかった
本当に気の会う友達とは
しばらく会わずともいつか会わざるを得なくなるだろうと思っていた
 
月の涙は乾きかけていた
 
夜は永遠に明けそうもない顔をしていた
「それにしても…」
ナルシスは考えた
「ほんとうにきれいなものなんてあるのかしら」
あのこはきれいな顔をしていた
なりかけの恋人のことだ
でも夢の中ではカッパになっちゃった
 
道すがら ナルシスは歌を歌った
邪魔する者は誰もいない
どこかで聞いたような
どこにもないようなメロディが
ナルシスの口からこぼれ続けた
そして その口元は いつしかほほえんでいる形になっていた
 
歌声の灯る道 ナルシスの行く道
いつか空がほんとうに明るくなるまで
このままゆけるかもしれない
しかし ナルシスも人の子
ナルシスは腹が減ってきた
出前を取ろうと 道端の電話ボックスに入り受話器を握った
 
「もしもし?」
 
声が聞えてきた
ナルシスはいつのまにかラーメンを食べながら
素敵に無駄な長電話をしているのだった
 
だけど 伸びないラーメンはない
「切るよ」
ラーメンが伸びてよかった
だって なに話していいか わかんなくなってきてたから
 
他人の言葉で話すのはたやすい だけど
決められた色で絵を描くのは とても きゅうくつ
ナルシスの色は なに色なのだろう
 
ラーメンを食べ終わって
ナルシスは走り続ける
銀色の自転車で
そしてナルシスは考える
他にやることがないものだから
 
失恋をしたいな
その前に恋をしたい
なんか自分が穴だらけのジグソーパスルみたいな気分なんだこのままだと
みんながナルシスのことを噂している
…そんな気がするナルシスのことを眺めている誰かがいる
ナルシスは片目でそれを見て その目を閉じる
 
それからまた歌う
神のいない教会の前を通ったり
風の吹かない丘に登ったり
人のいない広場を通り抜けてきた
 
ナルシスの歌は 世界に透明な道をつくりだす
けれどどの道を歩く者は どこにもいない
ナルシスの歌はどこにも届かない
闇に吸い込まれて それから星になる
それはよく光る とてもきれいな星なのだけれど
 
ナルシスは宇宙の端で光っている別の星を探す
お互いどこか遠くで光っていて
でも地上から見ると同じ星座の中のふたつなんだ
そんなすてきな星がないもんかしら
 
夢をみすぎて
待つのが嫌いで
だからナルシスは旅に出たけれど
「ほんとうにきれいなもの」なんて もうどうでもよくなっていた
「逃げた」という人がいても それは彼らの言葉で
それにだいいち
逃げた先にも雨は降る
花は咲く
空は澄んで 星は光る
その輝きが朝の光にとけてゆく頃
ナルシスのまぶたは ゆっくりとひらかれてゆく

 
 
 
初出  「タデクイ」第5号
 
 
 


 
 
 
 
 

  GO WEST   ますだいっこう
 
 
 
いつか
詩のある場所に立ち
いつか
書き終えられた詩のあるその場所に立ち
血を沸かし 血に溺れ 血を流して 地図を裂き
陽が沈む方眺めて 血が温もる ふうっと
GO WEST
 
いつか
詩のある場所に立ち
いつか
書き終えられた詩のあるその場所に立ち
火を放ち 火を鎮め 火と遊んで 人を抱き
地に遠ざかる町眺めて 火を熾す そおっと
GO WEST
 
GO WEST 最初何て喋ったんだっけ?
GO WEST 一方通行メールのプライオリティ
GO WEST 8000円ふんだくられ撲殺死体オカマ叩き夢の島
GO WEST 六色虹の向う側を歌う彼女
GO WEST 二度目の夜が結局最後の夜
GO WEST 糞喰らえのシットアップ
GO WEST ざらついた唇の記憶
GO WEST 脱ぎ捨てた綿100Tシャツ
GO WEST 眼球を刳り抜いても視えるアイツ
GO WEST 時にはノーブレスで25メートル泳ぐ
GO WEST 白髪頭のジイさんたちが抱き合い踊る
 
GO WEST
GO WEST
GO WAIST GO WORST GO THIRST GO DUST GO BURST GO BEST GO BELFAST GO FIRST GO FIST GO TEST GO TASTE GO TEXT
GO WEST 
一緒じゃなくても 大丈夫 だよね
 
いつか
死のある場所に立ち
いつか
書き始められた死のあるその場所に立ち
手を伸ばし 手を振り 手を翳して 天を仰ぎ
無に近づく時眺めて 手を握る ぎゅうっと
GO WEST
 
GO WEST 
一緒じゃなくても 大丈夫 だよね
GO WEST
一緒じゃないから 大丈夫 だよね
 
GO WEST

 
 
 
 
作者サイト  http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Theater/3233/ 
 
 


 
 
 
 
 

  たびのうた   ふじわらいずみ
 
 
 
ヤギフレーバーなの
ヤギの頭をこうやって
両手で抱えて嗅いでみるとね
ヤギのチーズは食べれなくなるわ
シモジョー一階
六畳一間
右足親指なくした青年
長崎出身ボブカット
ボブカットは祈りました
ああ
神様仏様白雪姫様キョウ様
どうか早く早く
私の元へ朝がきますように
紅芋の天ぷらを
カレー粉で揚げたシラセさん
そのユーモアは
ウイットにとんでないので駄目です
朝から市場でミキを飲んで
マネキン相手に写真を撮って
太陽に頭を焼かれ
足がフラリと影を踏んだら
前のおばさん止まっちゃったの
おばさんの買い物かごには
泡盛一升瓶が入っていたのね
口を開けて私飛び込んだよ
暑いよ暑かったのよ
私がプカーって浮かんでいたら
浜を湿らす波の音
私が吸って吐く息の音
私の喋る声と
雲の上の飛行機の音
波に躍らされる白くて丸い
まるいまるい砂たちが
こすれあうしゃらしゃらした音だけが
ここにある
海に立ち上がれば
赤いシャツからこぼれ落ちた
赤い水玉
死んだ珊瑚に
未だ群がる魚らが
あまりにも綺麗で
私には何が何だか分からない
おい、酢をくれ!
ラジオを聞いていたら
正方形の一角にはまった
真っ黒いシーサーが
火を噴いているような音楽が
聞えてきた
手渡された弁当を
猫に食べさせ
たこの炒め煮を海に泳がす
牛乳はマンゴーの味がして
南国カーニバルなんつって
舟の上の黒い太った男たちを
一人ずつ
海に突き落としたいくらいにね
怖かったんだよ
ここはね もう疲れちゃった

 
 
 
初出  CD-BOOK 「Travelin' Word」  MOTEL BLEU
 
 
 


 
 
 
 
 

  ノック(アウト)   小森岳史
 
 
 
ノックをする音がする。俺は耳を澄ましている。その音がまぼろしなのか、
誰が叩いているのか、判っちゃいないし、判ろうとも思わない。ただ、耳
を澄ましている。俺は扉を開ける。部屋の隙から空気が入っている。突然
の空襲音!飛行機が頭上を掠め飛ぶ。
 
俺は心臓を掴もうと、右手で左胸をつかむが、つかむ事の出来るのは胸だ
けなので苛立っている。ももがジーンズにこすれている。腹や腕にTシャ
ツが触れている。靴下はぴったりと足にまとわりついている。重たく靴が
更に締まっている。頭の毛が一ミリずつ伸びていく様に、頭皮がもぞもぞ
する。背中がかゆい。下腹を触る。手の平の感覚よりも腹皮の触感のほう
が勝る。そして、その中にどろどろと棲んでいる何かが音を上げる。
 
何かがいる。確かに何かが。断じて胃や腸ではない。
俺は頭よりも腹の中のこいつに突き動かされている方が心地よい。
ノックをする音は続いている。
 
目の前には公園しかないのに、俺もノックする。隣を歩く女をノックする。
ノックアウトする。ノックアウトする。誰かをノックする。この女の考え
ている事なんてどうでもいい。ノックする。昔、いつも俺はそうして来た
筈だ。この女をノックしてきた。でも、その音は聞き慣れてしまい、いく
らノックしても、ノックされても、どちらも扉を開けて歩き出そうとはし
なかった。
 
扉を開けろよ。強くノックする。階上の女が声をあげる。椅子が引きずる
音を立てている。何かが落ちる音がする。又、声。俺達はノックし、扉を
開け、公園を歩き続ける。手をドアノブにやる。冷たい感触がする。この
指が、確かに触れた、と思った誰か、あなた。
 
ノックをする音がする。この女は誰だろう?猟銃の音にも似ている。その
音聞きており、僕は歩く。隣を女が歩く。直接ということは頭なんかで考
える事じゃないぜ。腹の中にどっかり居座るやつが俺を侮ける様に語る。
ドアを開けろ。こじ開けろ。鍵のナンバーを教えろよ、隣を歩く女。女の
隣を歩く俺。
 
開けて、見透かしてやる。お前のすべてを。考えている事なんかじゃない。
その肌だ。その肌で、皮で出来たドアをノックしているんだ。
 
俺は、いつもして来た事で、昔だから、何も知らない俺が出来なかった事
じゃない。一体俺は誰に向かい語りかけているのか?俺は、君のドアを、
お前のドアを今、ノックしているんだぜ。そうしないと何も出来ないと思
っているからさ。今、ノックをする音がする。ずっとしている。これは、
ノックの音か、この指に最後に触れた人、握った人、最後に首を絞めたそ
の時の感じ、を、覚えている。息が口に入り、出る。

 
 
 
初出  フリーペーパー「テクスト READ ME」
 
 
 


 
 
 
 
 

  希望について   さいとういんこ
 
 
 
希望とは幸せな未来とイコールである
第一希望 お金も愛もある人生
第二希望 お金があってときどき愛がある人生
第三希望 お金がなくても愛がある人生
 
マシンガン dadadadadadadada
100年後に資本主義的貨幣経済が消滅していますように。
 
君は青い服 コバルトブルーの制服
船に乗ることになったって 夢の中で
「似合う?」「うん」コバルトブルーの制服
水平線までは絶望 その先には希望
ねぇ 泣かない私を探しに行きたい
 
マシンガン dadadadadadadada
I wish 100年後に性別や人種による刷り込みと差別が消滅していますように
 
とつぜん 魔法使いが現れて希望を三つかなえてあげますと。
ひとつめ どんなに食べても太らない身体を下さい
ふたつめ この恋がかないますように
みっつめ ひとつめとふたつめ以外のお願いもすべてかないますように
 
マシンガン dadadadadadadada
I wish 100年後にHIVが消滅しているか ごく普通の病気になっていますように
 
希望とは悲しみの涙が身体いっぱいになって
つきることなく目から溢れ出て空っぽになったあとで
それでも頭を上げて前を見て どんなに小さくても一歩 歩き出すこと
 
マシンガン dadadadadadadada
I wish 100年後に世界中の武力闘争が消滅していますように
 
未来なんてさ
 
マシンガン dadadadadadadada
I wish 100年後にホモセクシュアル・レズビアン・ヘテロセクシュアル・性転換が
    基本的な自由として存在していますように
 
いつかなんてさ
 
マシンガン dadadadadadadada
I wish 100年後に皆が当たり前に「死ぬことはすべての終わりではない」と知っていますように
 
希望は絶望の果てに咲く花
希望は砂漠に降る雪
希望は魔法使いの杖のさきっぽに現れるキラキラ
 
21世紀はキリスト教に立脚した西洋文明がおしつけた便宜上の数字でしかないなんて
そんなことよりも........抱きしめて欲しいよ ふつうに たいせつに
 
マシンガン dadadadadadadada
マシンガン dadadadadadadada
マシンガン dadadadadadadada
I wish 100年後に私自身が自然にこの人生を終えてますように
 
もういいんだ もういいんだ 希望なんて もういいんだ
明日みたいに そうなったとたんに ちがっちゃうから
希望という言葉のまわりをぐるぐるとまわるのは もう
 
I wish 100年後のクリスマスも 恋人達が手をつないでいますように
I wish 100年後の冬にも 白い雪が街灯りに照らされていますように
I wish 100年後にも少女や少年の初めてのキスの時には胸がドキドキ鳴っていますように
I wish 100年後にも夜には「おやすみ」と優しく言う声が聞こえますように
I wish 100年後にも春には桜が咲きますように
I wish 100年後にも切なさを人が知っていますように
 
希望を捨てちゃいけないなんて大きな声で言わないで
もう言わないで 負けちゃうから それよりも手のひらにのせて
I wish さしだすから
 
マシンガン dadadadadadadada
いらないもの ぜんぶ
むだなもの ぜんぶ
I wish.......100年後の人々へ 2101年1月12日の朝へ
おはよう 泣かない私からの おはよう
I wish........春には桜が咲きますように ふつうに大切に.......I wish.......
I wish.......100年後にも
 
希望とは今よりも素晴らしい何かである
第三希望 希望がいらない素晴らしい今
第二希望 銀河に浮かぶ太陽と呼ばれる恒星をまわる地球と呼ばれる星にある
     この部屋で寒い夜に 暖かいこの部屋で ハーゲンダッツの
     ストロベリー・アイス食べながらふつうに大切に過ごすこと キミと
 
第一希望 世界を包む金色の光
第ゼロ希望 ある朝 目が覚めたら始まっている あるいは終わっている何か
 
頭を上げて前を見て どんなに小さくても一歩
I wish.......マシンガン dadadadadadadada のかわりに
I wish.......羅針盤 lalalalalalalala
I wish.......完全版 lalalalalalalala
I wish.......

 
 
 
初出  詩集「希望について」  SPLASH WORDS http://members.jcom.home.ne.jp/splashwords/ 
関連サイト  http://www008.upp.so-net.ne.jp/little/ 
ブックスでも取り扱っております。 
 
 


 
 
 
 
 

          ジュテーム北村
 
 
 
なぜ殺してはいけないか
地球はどうあがいても地球にはなれない
(それを競い合うことはできない)
海に裸婦
陸に寡婦
旅人は帰らない
雷をみた
風をみた
火をつけた
「百人の死は悲劇だが百万人の死は統計である」
今夜
すべてのペイジから
痛みが消えた
明日は

なぜ殺してはいけないか
地球はどうあがいても地球にはなれない
(それを競いあったところで)
旅人は帰らない

 
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 

  物語   永瀬彩子
 
 
 
この写真集の女性について
私が知っていることは
クリスティーヌという名前であること
ドイツ人であること
古屋誠一というカメラマンの妻であること
二人の息子を産んだということ
投身自殺をしてしまったということ
 
空色のスカートをはためかせ
伊豆の海辺に立ち
恋をしている喜びに
満ち溢れていた彼女が
 
少しずつ狂い始め
周りの息子達や物や
自分さえもどこかに捨て去って
 
最期
壁にもたれて座り
少し涙を浮かべ
何かを待っているかのように
遠くを眺めるようになったのは
きっと
 
散りゆく桜や
空一面に飛びまわるカラスや
森の中の青い湖や
殺されるのを待っている牛や
壁に残された弾丸の跡や
こすれて消えそうなマリア様の絵や
干からびてしまった皿の上のブドウや
絨毯に放り出された木の櫛に
 
ひっそりと隠されている哀しみを
見逃すことができなかったからということ

 
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 

  ぼくたちの夜   中村かえ
 
 
 
ぼくたちの夜
ぼくたちの夜
自転車で多摩川へ
 
ぼくたちの夜
ぼくたちの夜
耳元でくすぶる風の音
 
ぼくたちの夜
ぼくたちの夜
誰もいないグラウンド
 
ぼくたちの夜
ぼくたちの夜
京王閣の赤い文字
 
ぼくたちの夜
ぼくたちの夜
リュックサックはからっぽ
 
ぼくたちの夜
ぼくたちの夜
絶え間ない川の匂い
 
ぼくたちの夜
ぼくたちの夜
ぼくたちの夜
素っ裸のサイクリング

 
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 

  しかけ絵本   西真穂
 
 
 
ガジュマルはさよならと言った。
ある朝、とうとうわたしの前の白いお皿にカステラが配置された。
わたしはカステラの情報をたぐり寄せた。
 
――黄色いスポンジ生地の中の細かい均一な気泡、カラメルはこげ茶、底に光る四角のざ
  らめ、四角形の全体。
 
――昔、レシピと技法は小さな船に乗ってやって来た。
 
――南蛮娘が嫁ぐ日の朝、娘の父は汗と涙を流してカステラを焼いた。父の体臭がそこら
  中に漂った。涙はにおいに消された。ほどなくしてユリの花が枯れた。またほどなく
  して五月雨がいさぎよく降った。またほどなくして熱帯夜にひょうが降る。そして師
  走の扉は開き、わた雪が積もった。ステンレスのパッドの上に。
 
――(1)パッドにたっぷりの牛乳を入れてカステラをひたす。
  (2)フライパンを温め、バターを溶かし、(1)のカステラを入れ、フタをして弱火で3
  分焼く。いい焼き色がついたらフライ返しで裏返し、裏面もこんがりと焼く。
  (3)皿に盛り、食す前にメープルシロップとシナモンをこれでもかというほどかける。
 
  これが超うまいのだ。
 
クリスマスの次の日の朝、わたしはしかけ絵本の虜になっていた。
本の中で浮き上がったり沈んだりするビリジアンや白などをふむふむと眺めていて、気が
つくとわたしは穏やかに見つめられていた。
あたたかい応接間の暖炉の前、スミス夫妻に。
「お嬢さん、しかけ絵本とはオツなものですな。」男のスミスは言った。
「カブリエルに、そっくりですわ。」女のスミスは言った。
わたしはにこりともせず何も言わない無礼な娘だった。カステラを片手に取って、一口目
をほおばる。
 
むっつりとカステラを食べてもくもくとかみしめながら、わたしはしかけ絵本からはとっ
くに興味をなくして、うつろなまなざしで、南蛮ユリの花の枯れた香りを想像し始めてい
た。

 
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 

  青空   井上智永
 
 
 
春は、
すぐそこ
飛び込もうか?
(勇敢な
詩のように)
 
立ち上がるのは塵
(と灰)
プラスこのカカンなる
生命とやらあ!
 
丁目を渡る
(くらいの)
気軽さで
残そうか?
 
足跡と
(物音と
ちからと)
 
ちからはいつでも
シツリョー(からブッショー)
泥沼から湧き出るような
暗闇
(塵と灰と)
 
まっすぐな笑いをつめて
(できるかぎりの)ヒユを捨てて
飛び込もうか?
(青空はミジン)
春は、
すぐそこ!

 
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 




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