選者  いとう http://poenique.jp/
 
 
 

 
 
 
黒豆
    みい
 
 
 
 
おばあちゃんがわらっている
黒豆があんまりにもふっくらしていて
それはね、圧力鍋で炊いたのよって
たねあかしをしてしまうのが惜しいくらいに
私の魔法であると思わせたかったの
 
私は去年もう何度も婚約しています
そして約束をしてはうそつきになる
そんなことばかり繰り返しては
楽しんでいるの
なんて筈ないでしょ、おとうさん。
 
トム
うちの猫の名前
訂正 おとうさんの猫の名前
元はというとうちで飼ってた犬の名前
犬の後飼って逃げた猫の名前
トムは歩かないよ
首をかしげるよ
しっぽをふるよ
にゃぁんって鳴くよ
だけどウイーンって音がするよ
おとうさんは可愛がるよ
私はそれを滑稽に思うよ
だけど便乗して私とおかあさんもなでるよ
おにいちゃんは電池を抜くよ
充電器も猫のかたち
 
友達は喪中なのに明日私の年賀状が届いてしまう
「ごめんね」は今年最後のメールにしよう
その瞬間回線パンクしそうにあけましておめでとう
束にしてちょんぎったらそこでぷっつり
敢えてめかくしで1本だけ残す
それがもしもあなただったら
ずっと運命を感じたまんまでいてしまいそう
 
婚約はうそつきのはじまりなのよ。
ついトムに話しかける私を滑稽だと兄が言う
その兄が黒豆をおいしいと言う

 
 
 
作者サイト  http://naturalism.oops.jp/ 
 
 


 
 
 
 
 

  うさぎ   小林ひろえ
 
 
 
うさぎの首の下に
時々 頭を挟んで寝る
やわらかく私を包む闇の中
うさぎの呼吸が流れている
 
うさぎは
私が小学生の時 父がどこからかもらってきた
私は この無愛想な生き物のために
毎朝オオバコの葉を摘んできた
朝露が私のくるぶしを冷たく濡らし
わけもなくざわめくブナの木の隙間から昨日の星が見えた
 
細かな雨のつぶ
母の真珠のネックレスを付けて
あのオオバコの草原に行った日
雑草の罠に足を取られた
細かな雨のつぶ
ネックレスははじけて消え
泥まみれで家に帰ると
うさぎが
私の肩ほどの背丈になっていた
 
あの日から
うさぎの首に挟まれて寝る
時々
うさぎの作る小さな闇に
一人で沈んでいく

 
 
 
初出  詩の教室@下北沢フィクショネス  http://www.ficciones.jp/ 
 
 
 


 
 
 
 
 

  メニークリスマス   まつお かずひろ
 
 
 
昭和29年、今から48年前のことである
5歳のぼくはメリークリスマスを知らなかった
メリークリスマスと言われると
メニークリスマスと答えたそうである
メニークリスマス!
メニークリスマス!
と叫んで、路地を走り回ったそうである
隣のおばさんがチョコレートひとかけらくれた
まだ森永のミルクキャラメルさえ贅沢だった時代
口の中いっぱいにとろけた甘さを大事に飲んでいった
メニークリスマス!
メニークリスマス!
おばさんと連呼した
おばさんのうちには背の高いアメリカ人がときどき来ていた
 
    昭和29年は
    2月マリリンモンロー、ジョーディマジオ夫妻来日
    3月ビキニ水爆実験で第5福竜丸被災
    9月「七人の侍」ベニスで受賞
    11月「ゴジラ」封切り
    流行り歌は「お富さん」
 
 
 
昭和34年、今から43年前のことである
小学校4年のぼくはクリスマスの夕方
クラブ「クイーン」にいた
隣のおばさんは、そこでホステスとして勤めていて
「カー坊遊びにおいで」、と招いてくれたのだ
24インチの赤い中古自転車を漕いで店につくと
おばさんは入り口で待っていてくれていて
ホールの隅のカウンターに連れていった
開店前で部屋はまだ薄暗かったが
おばさんがスイッチを押したとたん
クリスマスツリーのイルミネーションがぱっと光り出した
聞いたことがないダンス音楽が聞こえてきた
(そのときはタンゴもルンバも知らなかった)
しばらくして
ほら、とカウンターの上におばさんがさしだしのは
大皿にもった山盛りのサラダ
当時サラダはまだ珍しかった
「石原裕次郎の背が伸びたのはキャベツが好きだったからだよ。野菜もいっぱい食べなさい」
目の前の皿にはセロリやパセリ、レタスもあった
飲み物は、粉ジュースではなく、ほんまもののオレンジジュース
おばさんは白ワインだった
二人で乾杯、そしてメリークリスマスを言った
セロリはその日初めて食べるもので
匂いがきつかったが、我慢して食べた
 
    昭和34年は
    4月皇太子、正田美智子さんと結婚
    11月水俣病問題で、漁民1500人新日本窒素工場に突入
    12月三池争議開始
    流行り歌「黒い花びら」「南国土佐をあとにして」「黄色いさくらんぼ」
 
 
 
昭和39年、今から37年前のことである
ぼくは中学3年生で、クリスマスの夜を納戸で迎えた
急ごしらえの勉強部屋だった
ガラクタを片付けて父の勤め先からもらった古い木製の机を置いた
真っ暗な部屋で、机の上に小さな蛍光灯1つ
家族の寝息も聞こえてきたが
壁一つ隔てて隣家の炊事場の音も聞こえてきた
夜の2時だったか、隣のおばさんが帰ってきたのだ
そして、いつものようにオエーッとゲロをはいた
おばさんはもう40歳を越えていた
いい加減に勤めをやめればいいのに
と思ったがやめなかった
 
    昭和39年は
    6月小林旭、美空ひばり離婚
    7月警視庁通達「トップレス水着はだめ」
    10月東海道新幹線営業開始、東京オリンピック開 催
    流行り歌は、都はるみ「アンコ椿は恋の花」
    青山和子「愛と死をみつめて」
    ビートルズ「抱きしめたい」「オープリーズ」
 
 
 
昭和44年、今から33年前のことである
その年の4月大学に入ったものの
封鎖が続いて、ずっと授業はなかった
代わりにバイトと恋に明け暮れた
11月、封鎖解除のための機動隊突入は、アルバイト先のテレビで見た
秋には、彼女にふられた
理由は、彼女がぼくとつきあう以前の彼とよりをもどしたからである
未練があったが、それを断ち切らせたものは
彼女の一言だった
「あなたとより、彼とのセックスが合うの」
ぼくはひどいショックだった
男はやっぱりたくましくてうまくならなきゃいけないのか、と思った
しかし、すぐに新しい恋人が見つかるわけでなく
クリスマスの日は寂しく実家に帰った
すると何気ない話の拍子で母が
「隣のおばさんは、結婚したよ」
というではないか?
「40も半ばで結婚かぁ、おばさんもやるなあ」
と今なら言うであろうが、当時のぼくは動揺して何もいえなかった
自分が動揺するのを感じて初めて、ぼくがそのおばさんを好きだったのだと自覚した
まずいクリスマスケーキを食べた
 
    昭和44年、1月、東大安田講堂陥落
    5月東名高速道路全線開通
    8月大阪城公園で全国べ平連、反戦のための万国博開催
    流行り言葉「はっぱふみふみ」「あっと驚くタメゴロウ」「ニャロメ」 「オー、モーレツ」
    流行り歌は、「長崎は今日も雨だった」「恋の季節」「時には母のない子のように」
    「黒猫のタンゴ」「ブルーライトヨコハマ」
 
 
 
世は平成となって14年
いままで何十回のクリスマスをすごしたことだろう?
その間に結婚もした、離婚もした
しかし、不思議にクリスマスの思い出はない
ただ1度、教会のミサを見にいったことがあった
とても厳かだったが、ぼくのクリスマスではなかった
異教徒のぼくにとってクリスマスは
ツリーとサンタとケーキ。そしてチョコレート
小学校4年、クラブで見たクリスマスツリーが最高の思い出だ
電飾ツリーを見ると、我慢して食べたセロリの味がよみがえる
 
     今年の流行り歌、ぼくは知らない、歌えない
     いつの間にかその年の流行り歌が歌えなくなった
 
 
 
48年前のメニークリスマスを思い出す
あのとき、何でおばさんがあんなに喜んで相手をしてくれたのか
少し分かってきた気がする
たった一つの言葉が垣根を取り払うこともある
幸せにすることもあるのだ
あのとき、おばさんは幸せだったのだろうか
小学校4年のとき、なんでぼくをクラブに招いたのか?
離婚して一人暮らしをするようになって
少し分かってきた気がする
 
 
 
あのおばさんは、昨年寒さのきつい2月に亡くなった。
80歳だった。
結婚相手の田舎の社長は(実はおばさんはその社長の後妻に迎えられたのだが)
ずっと前になくなっている
3年ほど前、おばさんのアパートに行ったとき
タンスの上の小さな額を見た
おばさんと社長が温泉の湯気をバッグに
二人が映っているのがほほえましかった
 
 
 
 
メニークリスマス!
ぼくは遠くのおばさんに向かって言おう
 
 
メニークリスマス!
去っていった友人たちにも言おう
 
 
メニークリスマス!
夜景の向こうのカップルたちにも言おう
 
 
メニークリスマ〜ス!
メニークリスマ〜ス!
 
 
 
いっぱいいっぱい言おう

 
 
 
初出  アヴァンセ朗読会(2001.12.24)  
作者サイト  http://www2u.biglobe.ne.jp/~avancema/ 
 
 


 
 
 
 
 

  FIELDWORK   川村むつみ
 
 
 
自分のことをオレっていう友達がいる
オデとかいってネットで舌っ足らずしてる友達もいる
でもそんなのもうどうでもいいよ 
この場所で糸つむぎ言葉放つとき 自分のこと
私なのかボクなのか 我々なのかオレなのか 
今はまだ全部自分じゃないよ
今日はまずとりあえず労働者の自分から眺める夕焼けプラットフォーム
まだアトランダム 途中の駅で降り立つ空
ブルーとオレンジの壮絶 に向かって伸びる希望の柱は鋼鉄
( のような野性を確かめ合う街360度呼び合う ) 
 
財布に転がってる最後の100円玉くらい今は自由
だからスキップして帰ろう GO HOME お湯を沸かして顔を洗おう 
さっぱりきもちいいタオルとeメールとイイ匂い
夕暮ればんごはん窓からほっぺたにそよそよ
 
あ メール メール 
 
eのメールでつながってる2003年の
私たちが発信したポータブルフォンのポータブルKIDSは
ポータブルライムでスラム 
足かせなしラジカセだって大好きだ
言葉達を引き連れて歩け歩け 
つながりはさ こわがりもさ つよがりもさ そりゃあさいろいろさ 
でさあ 海へとつながる波乗り道路 一人乗りの飛行機乗り探しに
今日はチャリだよ砂利だよ着いたよ海だよ 
太 陽  答えは待ってた 
人つながってあいつ指でヒゲと天使感じてんのは 喜びと感謝
 
だから 泣くか生きるか 伝わらないかな
怒る 傷ついたなら でも攻撃はしない 目の前の岩に立ち上がる
だってつながってるからだ・だ・だ・だから
だいじな人がだいじだ・だ・だ・だ・だ・だ 
かみさま
ああ伝える魔法を見つけた
1人抜いて2人抜いて牛蒡抜きして手作りボール
蹴って思いは絶対伝わる ライフ の空中戦で飛び散る
わー盛り上がってきたよ パス パス シュート
オレオレ ここだよ オレオレ
うんかっこいいよかっこよかったよだってきもちよかったもん
      君が気持ちよかったからだってつながってるから 
 
だから こんどの夕焼けはおしゃべりな飛行機乗りとビールでも飲もう

 
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 

  Smoking   蒼うさぎ
 
 
 
あきれるほどの煙草飲み
 
薄くなった髪は いつもヤ二臭くて
 
煙草をはさむヒョロ長い2本指 ニコチンブラウン
 
いつもフィルターがじりじりと焦げ付くまで
 
煙の行方を味わってた
 
 
Smoking
 
 
俺のじいさん
 
 
 
孫の制服から煙草をくすねて
 
便所で一服
 
へたれた肺に喝を入れてた
 
そんなあんたを本気で怒る
 
ばあさん 最後まで本気であんたを愛してた
 
 
Smoking
 
 
俺のじいさん 逝っちまった
 
 
 
煙になるじいさんの前 線香代わりに立てたハイライト
 
消えることなく 崩れることなく
 
最後の一本 吸い切った
 
フィルターが じりじりと 焦げ付くまで
 
 
 
煙になって空トブよ
 
煙になって空トブよ
 
 
Smoking
 
 
俺の煙と じいさんの煙と

 
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 

  YOU   裕樹
 
 
 
YOU。
 
 
返信は要らない。
僕たちの言葉は、何時でも知らないところで空中分解して消えてしまうのが一番美しいと思うんだ。
何時までも繰り返される書簡は、かなしいばかりだから、互いに詩を送りあうぐらいが、僕たちには似合いだと思わないか。
 
時折混ぜ込んだ散文で確かめ合うこともなく、僕たちのしずかな終りの時まで永遠に繰り返される言葉の応酬は、だから誰にも理解されないものであっていいと思う。
 
 
YOU。
 
 
君が初めて僕に送ってくれた詩を僕は覚えている。
優しさとは何かを詠ったものだった。
短歌だった。
僕はそれを受け取り、4行の詩を贈った。
それが始まりだった。
 
YOU。
 
僕たちの遊びは深遠に近づくにつれ危険を伴うようなものだったとは思わないか、いや、それすらも現在進行形なのだ。
僕たちは互いにしかわからない暗号をくみ上げ、人が読んでもただの詩であるのに、僕たちにとっては何時でもそれは手紙そのものであった。
時には君の恋人が僕に嫉妬するほどの、熱烈な恋文にも思えただろう。
 
YOU。
 
だがそれはその通りなのかもしれない。
僕たちは魂の奥深くで結ばれている。
そこには常識も名前も性別も介在しない。
在るのは僕と、君という存在だけなのだ。
 
YOU。
 
返事は要らない。
だからこの手紙も君に届けられることはない。
 
水に浮かべ、海に流そうと思うのだ。
僕たちの言葉は、何時でも知らないところで空中分解して消えてしまうのが一番美しいと思うんだ。
そうだろう?
 
YOU。
 
だって、僕らは詩人なのだから。

 
 
 
 
作者サイト  http://gareki.ktplan.jp/ 
 
 


 
 
 
 
 

  きねんひ   尾上れこ
 
 
 
いきしにとはかかわりのないところに
きねんひはたてられ
ことりは
ついにそのばしょにたどりついた
すでにかたちだけになったふしあわせは
それでもまだとおくのほうにみえていたが
「そらはうそで
 どこまでいったってぢめんだ」 などとおどかされて
むりやりくつをはかされたりすることは
もうないのだとおもうと
ことりはおもわずなみだをこぼした
そして
まもなくことりは
いしになりたいとおもいはじめた
きねんひには
けっきょくなにもかかれてはいなかったが
たとえばそこに
こうふくがとうめいににじんでいたとしても
そんなことも
ことりにはすでにかかわりがなかったのである

 
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 

  回顧録/every dog has its days 2001   
 
 
 
 
カチカチ
 
急カーブ注意!と書かれた
ゆるやかなカーブを発見する
ボリス・ベッカーの言い分
「彼女とはオーラルセックスしかしてないんだ!」
あきらめる伝説の双子
ルーサー・トーとジョニー
 
カチカチ
カチカチ
 
仏ルモンド2誌の掲載した写真、
「拷問をうけるアルジェリア兵」は
「宴会でさわぐフランス兵」だった
 
蚊に食われてぽりぽり
やってたらいつのまにか朝
農民風キリスト?
満開の桜に雪が降る
 
カチカチ
 
あたらしい踏切の遮断棒は
強度27倍でフロントガラスも割れる
世界一有名な列車強盗は
ビールが飲みたくなって
35年ぶりに街宣帰国、即逮捕
ツナ缶だと思って開けたら煮豆だったことが
ええ、くやまれてなりません
 
カチカチ
 
まだ生きていたゴダールがタイプライター12台を購入(買いすぎ)
レッサーパンダの帽子を捨てた容疑者の供述  「犬だと思ってました」
「政府公認捨て子箱」を設置するハンブルク
 
やってきた炊飯器のタイマー機能におどろき
だからうちはカワバタじゃない!と怒鳴り
あっパスタもう1袋あった!とよろこぶ夢をみて
ティモシー・マクベイ公開処刑
 
カチカチ
 
カチカチ
 
 
ピザハットが100万ドル払って
宇宙ステーションにピザの宅配をしていたころ
フセイン大統領は恋愛小説を執筆ちゅうで
あたしはチャットでゴルゴ13のエピソードをまるまる1話分打っていた。
 
 
まいとしまいとし、
失うものを失い、
得るものを得る。
犬には犬の日々があり、
あたしにはあたしの日々がある。
エベレストに捨てたニンジンは土に還らないし、
ゴソゴソ、ワシャワシャ、という音だけが
留守電に10分ちかく入ってることもある。
モーツァルトの死因が
火の通ってないトンカツだったという新説にうなり、
8倍の速度で老化して
13歳で死んだサブリナを想い、
アパートの前でヒソヒソ話す
数十人のおばちゃんたちをこわがり、
ときどき100えんを拾ったりする。
 
あたしの日々はそんな日々であり、
それ以上でもそれ以下でもない。
犬の日々とおなじくうるわしく、かなしく、
やるせなく、ともすると忘れてしまうこれは、
2001年の記録。
可もなく不可もなかったことの
その証明のための記録。
 
 
 
カチカチ
 
 
 
 
桜井小塚  http://www.wildpinocchio.com/ 
 
 


 
 
 
 
 

  曖昧日暮れのせいにして   真方虎之助
 
 
 
あの窮屈な「すいません」すいません
眉を整える手つきで
息を止めて書いた破って投げた
捨てた
 
ペン先が生意気したら
神様か通りすがりのおじさんが
陽を込めた羊にしてくれたら良いのに
もうすぐ春ですね
と嘘を書いて消して
蛍光灯の明かりがチラリ笑った
それは仕方のないことだった
 
積み木は崩す前提で積むもの
接着したら
遊び心は閉じ込められる
不安は形なく硬い
形のないものは
まあだいたいそうだ
遠くへ投げたボールに背を向ける
そんな子供にはもう誰も
振り返ってはくれません
 
どうして手紙は君に宛てると
戻ってこないのでしょう
いつだったかの「愛しているよ」の
真似をして
帰ってこないつもりでしょうか

 
 
 
 
作者サイト  http://asameshi.oops.jp/ 
 
 


 
 
 
 
 

  雪つぶて   小山正孝
 
 
 
かなしい事なんかありやしない
恋しいことなんかあるものか
さう思ひながらもあなたのやさしい返事を待っていた
まぶしいような雪の朝 路傍で僕は佇んでゐた
僕のうしろを馬車が通った
僕のうしろを人が通った
でも 閉ざされたままの白い二階の窓だった
強烈なものを信じ
自分がいいのだと思ひながら
昨夜までのあたたかいあなたの眼ざしと声をそのまま
僕はその時も待っていた
明るい日はキラキラキラキラかがやいて
するどく風がかすめてすぎた
閉ざされたままの二階の窓
僕は雪つぶてをつくつて いきなり どすんと投げつけた
こなごなの窓
僕は逃げた
さうしてあなたをあきらめた

 
 
 
 
作者サイト  http://village.infoweb.ne.jp/~fwis7893/ 
 
 


 
 
 
 
 



 
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