選者  群青 http://www.verse-verge.net/gunjyou/
 
 
 

 
 
 
白い虫
    ぷらとー
 
 
 
 

逃げてゆくのは

白い虫

羽音を唸らせて

とんでゆく

ほうら

むすんでひらいて

ひらいてとじて

とじてほどいて

わらってないて

ないてにくんで

にくんでなげく

蒸気機関で

しゅぽしゅぽ行くよ

歩道をあるいて

車道をはしる

ふりむかないで

かすかにおもう

あした

久方ぶりに

あなたに会える

夢を見た

逃げ出してゆく夢を見た

幾千年も

あなただけ

あなただけを待っていた

逃げ出してゆく夢を見た

振り向けないので

宙返りして

一目見るため

宙返りして

久方ぶりに

あなたに会える

夢を見た

あなたの声

幾千年も

あなただけ

あなただけを待っていた

そう言いながら逃げてゆく

白い羽虫の

夢を見た


 
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 

 

石鹸の夜   A 道化
 
 
 

意味もなく笑い出した私の上に
真珠が
のぼる泡粒のように生まれる

夢中で呟いていた小さなひとりごとが
ふっと
石鹸の匂いを立てる

体と心がパジャマの中で息をしている
数分前に飲んだ冷水がまるくなる

窓を開ければ
頬に込められた色が優しく逃げてゆく
髪が冷えてゆく速度に
泣き笑う夜

指輪をくれるのではなく
すでに
指輪が全ての指にあることを
教えてくれる夜

パジャマの中
密かに
体と心が石鹸の息をしている


 
 
 
 
作者サイト  http://www.geocities.jp/a_do_ke/ 
 
 


 
 
 
 
 

 

バラナシ   ワタナbシンゴ
 
 
 

窓枠の向こう側に海溝が寝転がっている
地球が逆立ちした午後
ぼくは青空と煙草を携えて
ゆらり生える象鼻の先に
時をぶらさげた

路地裏の化石にチャイを注ぎ
オゾン層に流してみる
インド洋の水が泣く辺境をたどり
老人はここまで歩いてきた

「陽気なまでの今日の天気だ」

誰にでも 魂を解き放つ火が
さんざめく街並みを足元から焼いている
千年のにんげん
千年の死者たち
出会うところに咲くという アカバナの記憶の群生

風下に立ち 凧を揚げる子どもたち
不浄も清浄も子知らず
風に巻かれて
みんないっしょにそらになれ


 
 
 
 
作者サイト  http://mypage.naver.co.jp/tokoroten/ 
 
 


 
 
 
 
 

 

放課後のあとの即興詩   小夜
 
 
 

ダスビダーニャは
兵隊に良く似合うと思った
だから
夕暮れの校庭の
もうミニチュアみたいなうんていの上で
空に向かって敬礼してみた
だってさ 背伸びしなくても手がついちゃうんだ
だったら 登るしかないでしょう
だすびだーにゃの
音が好きなの
だから
何度でも何度でも君に投げてみた
だすびだーにゃ、だすびだーにゃ、だすびだーにゃ
だすびだーにゃの雨降らし
色が流れてしまうのを待つ
それで、ほとんど白に近くなったら
ばらばらのビーズを木の枝で叩くの
だ、す、び、だ、あ、に、や、
ほら そこらへんの鉄琴よりきれい
でしょ
だすびだーにゃ、だすびだーにゃ、だすびだーにゃ

スカートの裾が邪魔で
足振り上げたらよろけた
拍子に君のボタンがとれてるのが見えた
シャツの上から3つめ
下からは5つめ
千切れた糸の先だけちらちら
どこで落としたのかな
まだ落ちてるかな
でも君には言わないでおく
気づくまで待ってる
もう気づいてたらシャクだ
スカート、やっぱり邪魔だ

あのね、私は
砂時計の
減っていく砂じゃなくて
増えていく空間の方だから

で、
ダスビダーニャ
夕暮れ
も終わってもう圧倒的な夜の色
揺らがないのでうんていを降りる
スカートの裾引っ掛けて
君が手を差し出す
ささくれ見つける
つんつんしててちょっと反抗的だ
でも許す
気分だけ姫で
地面に降り立つ
ほとんど闇なので
安心してキスする
ボタンのこと言っちゃう


 
 
 
 
作者サイト  http://members.tripod.co.jp/fukidamarist/ 
 
 


 
 
 
 
 

  セイジ   歩手子
 
 
 
彼の名はセイジといって
いつもきちんと自己紹介をした
確かにそういう目をしていて
ちいさな嘘の数々は
上着のなかへ隠していた
彼はときどき女の子たちの肩ごしに
どこか遠くを見ていて
それをだれも
知らなかった
やがてわたしの友人が選ばれて
彼の隣に並んだとき
わたしは彼女が
セイジにはおそろしく似合わないことに気がつく
わたしがしばらく見ていると
わざとこどもっぽい声で話す彼女の
手を彼は握って
自分の腰へと運んでいった
わたしはとたんに眩暈がして
まっすぐがわからなくなり
いつのまにか
ホールの外へ落ちていた
セイジ セイジ
なぜ わたしを選ばなかったの
わたしのほうが
あなたに似合うはずなのに
理由はまったくわからなくて
なぜだろう
わたしはとても
遠くのほうへ落ちてしまった

 
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 

  電線のない 座っている   糸桜
 
 
 
わたしが詩を書くのはたいてい
恋人がいそがしくしているときで
わたしも届きたくない とき
わたしの手足は 
ぽつん と 絡まって
ミルクを入れてしまったコーヒーが
プラスチックの のし棒のように
こたつの端を遠くする
 
ふと寒いのとおなじに
鉛筆がはだかで
どこかおなかがすいたみたい
寒かった から
いま 口をぬぐったティッシュを
そのまま 見えるところに
置いておく
この世のことではないよ
という顔をして
 
わたしさみしいのかしらん
ねえ
黄色いぬいぐるみ
わたしに群れるようにしていて
目が合わないから
あたたかくは ないね
かたいところのないものを抱いて
にい と 抱いて
骨なくてよかった
生きていなくてよかった て
抱きしめている
 
電球切れないかな
牛乳だといけない きっと電球
なら 買いにいかれるでしょう
いかなきゃね て
よいしょ て
わたしもいそがしくないわけではないの
ねえ
 
だから大抵 電球も切れていないし
散らかしてもおかれないので
詩を書いたり しているのです
ようやっとかかって とがらせた鉛筆で
わたし
ちょっとだけ 寒いようにしている

 
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 

  うつむくおでこ   A 道化
 
 
 
向かい側の窓、車輪の軋み
雲越しに圧縮されてゆく空の不透明に
小さな夕暮は
嘲笑の対象であるかのように目を伏せていた
 
 
どこにも
ぐらつかない骨格は見当たらない
全てはするり、逃げる尾のよう
でも、もう、追いかけはしない
追いかけたりはしない
 
 
空の柔らかい部分に向かって
鳥の群れがこぼれてゆく
強さ、と無意識に呟いて、
両手が空っぽを握り締めていた
 
 
ああそのときうつむいたおでこに
 
 
おでこの敏感に
弱々しい夕暮が灯る
向かい側の窓
車輪の軋み
なんにも確かめたくなくてうつむくのに
 
 
空っぽで覆われた手が触れたおでこは言う
 
 
熱が、あるみたい、
愛して

 
 
 
 
作者サイト  http://www.geocities.jp/a_do_ke/ 
 
 


 
 
 
 
 

  一人の昼食   りっと
 
 
 
ハンバーガー屋でぼんやりとする
左手には音符を触る女の人で
僕の心臓は文化的です
右手には幼児を触る女の人で
僕の健康は母性的です
ふと目をあげれば
生き別れた友人が
思いつめたようにバスに並んでいた
 
らしいのですが
僕は看板のアイスがうずまきなので
お腹を空かせた気持ちがします
今日も世界は油だらけだ

 
 
 
 
作者サイト  http://www.geocities.co.jp/Bookend-Shikibu/4028/ 
 
 


 
 
 
 
 

  飛光   ワタナbシンゴ
 
 
 
おぎゃあ
 
 
 
 
一字一句間違わないように強要された私のからだに
それとなく触れるだけであなたは最前列から並べら
れた裸体ばかり順番に、顔だけは別にするようです
ね、私的な懇談会は繰り返された。化学反応を起こ
させるかのような指の動き。わたしはその指だけに
すべてを捧げようとしています。笑顔も知っていま
す、快楽だけの愉悦も知っています、どうかそれだ
けのためのわたしを見てください。世界の結合部を
誰もが隠したがるから、わたしはパックリと劈かれ
るとき、深淵を何度も何度も知るのです。わたしの
襞は分厚く恥ずかしいの。だから後ろの穴にしてく
ださい。どちらかというと困ったような顔がわたし
のチャーミングだと、みんなが褒めてくれます。魔
法瓶ももらいました。よくみて下さい。わたし、み
て。赤いんです。こんなにも。そうです、ここが最
果てなのです。
 
 
 
 
おぎゃあ                
 
 
 
 
スペインの西の端にフィニステレという村がある。
ただいたずらに霧深い、人口200人あまりの寒村だ。
わたしはそのころリスボアから自転車を漕ぎ500キ
ロ、ただいたずらに東を目指していた。フィニステ
レという、スペイン語で【地の果て】を意味するこ
の村は、むろん東には位置しない。ひがし。この地
球にあってなにを意味するものが東を定義づけてい
るのだろう。わたしはただ球体に沿って自転車を漕
いでいる。海辺で猫が一匹ニシンをかじっていた。
かのじょもまた最果てなのだろう。ここから先は大
西洋。いや大西洋ですらなかったコロンブス以前の
何億年、地球はこの霧深き村に終わっていたのだ。
 
 
 
 
おぎゃあ           
 
 
 
 
激しい戦闘が行われていた晩、海が赤く燃えていま
した。あなたをこんなにも待っているのは、あなた
がやがてわたしを貫くから。その期待だけでわたし
の塩水はすでに揺れてくるのです。わたし、スケて
います。恥ずかしさでわたしの突起は一回りも肥大
してしまいました。あなたは来ません。苦しいので
す。苦しいの。だからこの夜、自分で吹きました。
見知らぬ男が突然わたしのからだを眺め回しました。
うれしかった。塊をふかしながら揺れていました。
遠くで祭囃子が聴こえてきて、わたしはたくさんの
ひとの襞を摘み、分厚い恥辱はうねうね曲がりだし、
自分の指を深く深く、何度も何度も突き立てました。
鮮やかな血が、大地に溢れ出し、大きな河となり、
うねりを上げて世界は突然暴力も劈いてしまうの、
だから、わたし、わたしのからだ、すべての流れが
出会うところで、あなたの棘を摘み、わたしのかた
を植えました。硬いんです。硬いんです。こんなに
も。そうです、ここが最果てなのです。
 
 
 
 
おぎゃあ           
 
 
 
 
猿払の湿原を越えると、自動車は誰も100キロ以
上のスピードで宗谷を目指す。はまなすの花が美し
い6月の休日、誰もそんなことにはかまっていない。
なんたって宗谷には宗谷岬がある。今は獲れなくな
ってしまったニシン。昔ニシンは黄金の魚だった。
大西洋からオホーツク海の冷たい水は、ニシンとと
もに回遊してきていたのだ。雄大な北の大地には似
合わない豪華絢爛なニシン御殿。喧騒と荒波が好き
だった漁師たちの宴。遠くでラッパが鳴っている晴
れた日には樺太が見える。そう、あれが宗谷の岬。
曇りの日には何も見えない駐車場に立ちアイスクリ
ームを舐めている子どもがいた。「最果て」と刻ま
れたキーホルダーを3つ買って帰ろう。
 
 
 
 
おぎゃあ           
 
 
 
 
赤いダンスがはじまりました。わたしは輪の外であ
なたをいざなうように、挑発するように、哀願する
ように、ふくらはぎ揺らす風の唄声で、それに合わ
せあなたが踊りだします。わたしはもう、茫洋とし
た意識の道をたどり気がつくと思わずコップを取っ
てあなたの水溜りを飲んでいました。わたしはわた
しの気配に満たされるとき、地球の裏では月が欠け
はじめる合図です。ここはいったいどこなのでしょ
うか。わたしはいったい誰なのでしょうか。そんな
呪文を口々に唱えながら、たくさんの人々が両手に
花をたずさえ、スカートもはかずにお尻を突き出し
ています。でも男や女たちはみな一様に花に、白い
液体をやっているようでした。空に樹々は深くたち
こめ、呼吸は雲を狩り、願うまでもなくみんな、こ
の地に降る雨のことを想い泣くのでした。こんなに
も、こんなにも。そうです、ここが最果てなのです。
 
 
 
 
おぎゃあ           
 
 
 
 
国土地理院に勤めている田中課長は鳥瞰図のプロだ。
だいたい眼にした範囲の風景をそのまま鳥瞰図にし
てしまう。ある日の休日、善福寺川のほとりで田中
課長は鴨を眺めていた。季節は晩秋の深みにいた。
万歩計は37万キロをさしていた。遠くの団地で布
団をたたく音が2ビートを刻んでいた。田中課長に
子どもはいない。妻もいない。そしてもちろん、親
も、いない。それでも田中課長は45歳のこの歳ま
で決して人と比べることなく、自分は満たされてい
る、幸せだと感じて生きてきた。鳥瞰図とはそうい
うものだった。偶然の葉が水面を揺らした。それが
合図だったかのように鴨たちは一斉に飛びたった。
田中課長はいつか鳥になれるのだろうか。それは、
誰にもわからない。もうすぐ冬がやって来る。
 
 
 
 
おぎゃあ           
 
 
 
 
偶然性。気がつくとわたしはいつも足りるだけのじ
ゆうでした。満ちては欠ける所作、そのものがわた
しの営みでした。そこに【あなた】が意味を、凶暴
までに【あなた】が意味を。ひとつとして吹いてい
る泡が無数に点滅しています。器などそもそもそも
なかったのです。それが「在る」ことの惧れでした。
一切経山。はじまってしまえばおわりなど存在しま
せん。はじまってしまえば、あとは意味ばかり、意
味ばかりを重ね、わたしは必然性へと【あなた】に
対峙し続けなくてはいけないのです。ああ、はじま
りばかりがわたしをわたしのかたへと注いでいく。
わたしはとうに赤い裸体です。そしてこれ以上のこ
とをあなたは身体に求めてくるのでしょう。ひとは、
ふと窓の外を見たときに知ってしまうこともあるの
でしょうか。ふと。それでも泡を吹きながら、わた
しがあなたを求めている。こんなにも、こんなにも。
そうです、ここが最果てなのです。
 
 
 
 
おぎゃあ           
 
 
 
 
チュパに身をくるみ、12月の東チベットをチャムド
目指し進んでいた。チベット高原の縁、あたりには
一面、莫大な山々が降っている、そのなかを足跡で
すらない道を標高5000メートルまで昇っていく。五
体投地はここではまさに地球に生まれついてしまっ
た間隙。そんな捨て身の激しさをラサまであと2000
キロ繰り返すラマ僧。ここに陽暮れていく慕情は周
囲を出し入れするだけだ。チベットに海はない。鳥
だけが魂を運び、大イヌワシの影が夜に傘をかぶせ
ていた。チャムドの街は偶然にも年に一度の燈籠祭。
街の灯りはすべてろうそくの灯とおかれ、灯は揺ら
ぐ。揺らぐ夜にしし座の流れ星たちが、ひとが決し
て渡ることのできない河を架けていた。
 
 
 
 
            
 
 
 
赤い最果て
 
 
飛光よ、飛光
 
 
一度きりの夕暮れが
 
 
あなたを劈いた暴力に
 
 
わたしは産まれてきたのです

 
 
 

作者サイト  http://mypage.naver.co.jp/tokoroten/ 
 
 


 
 
 
 
 



 
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