バス   木村ユウ
 
 
夜のバスに乗っていた
 
僕の降りる停留所は
もっとずっと遠くなので
何人も降りて、人が少なくなっていった
 
停車ブザーが押されて
バスが停まった
若い女の子が席から立ちあがり、運転手の脇の機械に
金を払い、降りて行った
最後だ
 
どうしてみんな
ありがとうございました、って言わないんだろう?
と僕はさっきから思っていた。
言うのはだいたい、
───まあいいや。人のことだから
 
運転手を見ていると、それは僕が辞めさせた運転手だった
 
君の会社の部長が、
僕のアパートで頭を下げてこう言ったんだ
すぐに辞めさせます
 
いやちょっと待って
だって二人もなんですよ?
 
ですから二人とも辞めさせます
全部本人たちから聞きました
辞めると言っています
 
そうじゃなくて、教育の問題なんじゃないんですか
僕にああいうことをしているということは
他の乗客にもしているはずです
何をされても
 
言うことができない人だっているんだ
彼らが何年そんな思いをしていたか
わからないですよ、僕は
 
その通りです。大変申し訳ありません
 
僕はバスの中で、
運転手の頭の後ろを見ていた
君は、
その後どうした?
 
緩やかなカーブにバスが差しかかると
ゆっくりと曲がって行った
 
僕はね、前に
社長の運転手代わりもしていたんだ
だからよくわかるよ
今の、
いいカーブだね
 
となりに気難しいやつを乗せて
眠らせてしまうのが
高級な運転だよ
それは「黒塗り」でも、バスでもおんなじさ
 
もう降りるよ
 
僕はいつもの停留所で降りた
暗くて見えないけれども
二軒隣の家には
糞を片付けてもらえない犬が
いるはずだ
 
いやでも違うんだ
糞はどんどんたまっているわけではないんだよ
いつもひとつかふたつだ
夜まで働いて
犬のご飯を用意して
話しかけている人
ごめんね
子犬だったころの写真
 
僕は叫ぶ
声は闇の中へ吸い込まれていく








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カシの実   木村ユウ
 
 
二人で細い橋の上を歩いている
車も通れないような橋だ
 
下をのぞくと川の水が透明さを増しており
この冬の厳しさを
予感させる
 
この辺にリスっていないのかな? と君が言う
僕の靴の裏でぱし、と音がする
なるべく踏み抜かないように
靴をよける
カシの実を踏む場所に住むなんて思わなかったな
僕は
帰れるんだろうか
 
リスがさ、と僕は言う
木の実をいっぱい集めて
自分の巣に詰められるだけ詰めるだろ?
 
気持ちいいんだろうな
天井までみっちり詰めて
眺めるんだよ
想像してみなよ
ん、そこにまだ詰められるな。明日やろう、とかさ
僕は笑う
ああこれで冬は安心だなあとか
思ってるんだよ
面白いだろ。本当なんだ
 
面白いね
でも、リスは
木の実を
土に埋めるのよ……きっと予備だね
もう
家へ帰ろう
 
この手袋とてもいいな
そう、よかったね。安かったのよ
どこで買ったの?
駅の洋服屋さん
 
今夜は何食べるの?
今夜は何でしょう
 
今夜は───








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ニュース   木村ユウ
 
 
ベッドから起きると、お願いだから、
今日一日ニュースは見ないって約束してくれる?
と、君が言う
 
どうして? と僕は聞く
 
お願い
 
だから、どうして? と僕はまた聞く
 
とてもいやなニュースが流れているから
明日にはもう流れないと思うから
今日だけは見ないでよ
 
僕がグラスの冷たいお茶を飲んでいると
君が僕の顔をちらっと見るのがわかる
 
ニュースね。いいよ。僕がそれを見ると
君に迷惑をかけることになると、
そう思う
 
以前の僕ならきっと見ていた
今はだまっているだけ
 
見るなと言われたものは見てはいけないと
昔話でも、口を酸っぱくして、しつこく言ってる
真面目な話だよ
笑ってはいけない
 
ニュースか。
僕はとっくに見たんだよ昨日の遅くに








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大好きだった女の子   木村ユウ
 
 
僕が中学生のときに大好きだった女の子は
剣道部だった
 
教室は一階にあって
その日一時間目がはじまっても
空いたままの彼女の席を眺めていた
 
すると
窓際の僕の横を彼女が通った
いつも笑っていたので
すこしの間僕は動けなくなった
どうしてかというと
 
重い剣道の防具が入った袋を
竹刀で肩からかついでいて
見たことがない真剣なまなざしと
遅刻には似合わないゆっくりとした歩調で
歩いていたから
 
僕は、それまで何かひとつのことに
打ち込んだことはなく
今思えば、彼女の真剣なまなざしというのは
何かに打ち込んでいる人のそれだった
 
僕は遊んでばかりいて
勉強も全くしなかった
彼女は大学へ行ける高校を選んだ
 
僕は高校を卒業して、東京へ行った
僕の知っている同級生の中で
東京に出たのは僕ひとりだった
 
僕は、
二十歳をすぎてデザイナーをしていた
ときどき地元へ帰ると
友達と話が合わなくなっていた
彼女が
近くのスーパーマーケットでレジを打っていると聞いた
行かなかった
 
さて、話が少し移る
僕は何人かに「学歴コンプレックスがある」と言われたことがある
「それってどうしてだろう?」と僕は妻に聞く
「さあ」と妻は言った
 
ここにエピソードをひとつ書いたのだが
リアリティよりも品性を重視することにした
削った
 
まあ大学に限ったことじゃないけど
こういう人はたまにいる
僕は彼らの心理を真剣に考えた
大学に行っている人間は、いくつかのタイプに分けられると思う
 
ひとつめ
本人に学歴コンプレックスがある
 
ふたつめ
親に学歴コンプレックスがある
 
みっつめ
特に何も考えていない
 
よっつめ
親が愛情で行かせている
これはふたつめとどう区別するかというと
匂いでわかる。当然混じっている場合もある
 
僕の恋人だった人は父親がいなくて
まだ二十四歳だったが
夜自分で働いた金で
弟を大学に入れたのだと話してくれた
大切な弟
 
余談だった。あとは何かあるか?
目標があるとかいうのはいちいち書かんでいいだろうな
 
いきなりだけどごめん、話をスーパーマーケットへ戻そう
僕はスーパーマーケットが大好きで
スーパーマーケットの「梯子」までする
毎日行っていると
レジの小母さん達と仲よくなる
レジの小母さん達が好きだ
あまり若いアルバイトのレジには行かない
それで、
 
それで何だっけな?
僕の言いたいことって……
よくわからなくなってくる
 
レジだよ、そうそう。
 
小母さん達がレジ打ちの仕事が終わって、制服を脱いで、
自分のスーパーマーケットで
客として買い物をしているところをときどき見た。
若い女の子のレジさんも。
 
楽しいのを抑えているのがわかる。
棚をあれこれ見ている
あの横顔が見たくて行くんだ
大好きだった女の子を思い出す








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臘梅   木村ユウ
 
 
僕は特急の料金を聞くために
駅員が他の客の相手をしているのを
待っていた
 
そのとき僕が考えていたのは
髭をはやした駅員というものを見たことがないということで
あるいは今日はそんなには寒くないな、
ということだった
 
ふと横を見ると
そこに臘梅がいちめんに印刷されたパンフレットがあり
僕は特に何も思わず
それを手に取った
電車の中でこれを見るのも悪くはないと
そう考えた
 
電車を待つあいだ
僕はそのパンフレットを読んだ
宝登山ロウバイ園、
とそのパンフレットには印刷されていた 
長瀞駅からロープウェイに乗り継いで五分
臘梅の花言葉は「慈愛」
 
品種は素心、
満月。
 
僕は電車に乗ってからも
その黄色の花を眺めつづけていた
やがて胸があつくなり
急に目の裏側があつくなった
パンフレットを強くは折らず、だまってふところにいれた
それは
君のことだったからだ
 
僕はガラスに肩を寄りかけ
弱い日の光を受け
流れていく光景を見つめていた
ガラスのこまかな無数の傷が
日に光っていた
こんな世界は想像しなかった
 
僕と君はただ
ふつうに幸福になろうとしていただけだ
いや、
幸福という言葉はよそう
あまりよく検証せずに使われすぎる
幸福という言葉があるから
また不幸というものがあるのかも知れないじゃないか
 
そう
僕と君は
人生のたったつかの間の安らぎを
求めていただけ
夜は昼に疲れて眠る
それも許されない
それでも生きていく
臘梅の花言葉─────
 
慈愛、温かい心

 










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髪   木村ユウ
 
 
洒落たガラス張りのレストランを
一軒知ってたんだ
二十歳くらいの頃さ
半分はバーみたいになってた
友達が来るとそこへ連れていったんだ
いつもこの店に来るんだ、って
好きなんだって言ったんだ
でも本当は、一人で行ったことはない
 
君は電話の向こうで小さく鼻をすすった
 
僕は続けた
メニューを開くと、───写真のないメニューさ
聞いたこともない名の料理ばかりだった
値段ばかり気にしてた
 
君は僕の名前を呼ぶ
僕は受話器を耳に押しあてる
わたし、そこにいってみたい
君の声は
鼓膜の奥まで静かに響く
 
椿……
 
雨がぱたぱたと降り始める
君の息づかいで
僕は親和性、ということについて考える
 
何も言わない電話に
君の肌の匂いまでしてた
 
南からきた風が
しめった空気を運んできて
夜の雨を強くさせる
でも雲の上はたぶん深いブルーさ
 
換気扇で小鳥の声がしているんだよ
聞こえる?
二羽いる感じだよ
つがいかもしれない
かちゃかちゃと足の音がする
巣に帰り遅れたかどうかしたんだろう
雨が降っているから
 
君が僕の名前を呼ぶ
───そしてまた僕の名前を呼ぶ
泣かないで
君の髪をまだ持ってる

 










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焔の中で   木村ユウ
 
 
君も雨の中を歩いていたのか?
それで泣きながら電話してきたのかい?
 
なんでもないの。あなたの声を聞いたらほっとしたの。
わからない?
 
君が歩いていく
あの夜君に何が起きていたのか
僕はこれからずっと抱えていく
誰にも言えない
 
───なんでもないの、大丈夫。
ほんとになんでもないの
泣き続けてる
 
こんな残酷な世界に生まれてきたのに
僕は受話器を強く耳にあてているだけ
 
夜中に街をさがし歩いてた
僕は君の影すら見つけてやれなかった
 
すずの兵隊と紙の踊り子
ストーブの中
君が燃え上がるのをただ見ていた
見つめあってた
 
あなたの声を聞いたらね、ほっとしたの。
泣き続けてる
 
みんないつか焔に焼かれる
余韻だけを残してく
 
いつまでも耳の奥に響いてる
金色の雨の中を
流れるように歩いてく

 










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パラフィン、冷たい水蒸気   木村ユウ
 
 
赤いシトロエン。
助手席にすわった僕。華代子に抱かれているのと同じ。
明るいガラス。大きなシートはソファといっしょ。
そして僕は、雪の降るクリスマスなんてお話の世界だと思ってた。
 
曇りの午後は町までお買いもの。
だって、今夜はご馳走だから。
 
外はどこまでも冬の色。
冷たくて、そして鼻の奥で水蒸気の匂いがする。
 
国道へ抜ける細い道をシトロエンが行くとき、
ジャンパーを着た髪の長い男が、
自転車に乗ってすれ違った。
パンをかじってた。
 
僕はあっと振り向いて、
そして、隣の華代子を見た。
 
華代ちゃん、あの人、パンをかじってた。
 

華代子は前を見たまま、
少し微笑んだ。
窓枠にやさしくかけた腕のゆるやかなカーブ。
 
百貨店が見えてくるまで、
僕はだまってガラスの外を眺めてる。
 
さて、今日は何を調達にきたのでしたか、な?
腰に手をあて笑う華代子。
  
ケーキ?
と僕。
そうケーキ
 
チキンも?
うんチキンもね
 
ろうそくは? 色のがあったよね?
あるわよ。
ふふ。可笑しいね、君は。
 
 
いっぱい?
そう
 
いっぱいよ。

 
X,mas










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   木村ユウ
 
 
「もしもし」と僕は言った。
僕は自分の名前を名乗り
そして
椿さんはお帰りですか?
 
電話に出た彼女の母親に、
とても感じのいい、はきはきとした声で聞いた。
丁寧な彼女の母親は――明らかに困惑した声で――こう言った。
 
椿はね、もういないんですよ。
 
 
僕はそれで我に返り―――
 
そうでしたね。
すみません、失礼します。
 
僕は公衆電話の
どうしようもない公衆電話の
ガラスの中に
 
僕は
 
もう人間ではない
もう人間ではない
 
テレフォン・カードを吐き出すスリットが赤く点滅しいて
きっと電子音がやかましく、
カードを自分自身から引き抜くよう、要求しているのだろう
 
僕にはもう、聞こえやしないが

 
a camellia.










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側   木村ユウ
 
 
僕は毎日写真に話しかけて、
時々、ほほ笑みかけてさえしている。馬鹿馬鹿しいだろ?
人にみられないようにしている。
 
今日はまたえらく綺麗だね。
僕を見つめる目じりの優しいこと。
胸もとの白さ。
指とか。
君の、その額になんどくちづけをしたことか。ああ。
 
おお、白い腕をまわしてくれ。
その濃密な髪の匂いを僕にくれ。
君は僕の匂いがとても好きといったろ?
おお、おお、助けてくれ。
僕を連れていってくれ。
 
こんな世界、僕は耐えきれないといったなら、
君は、
酔いつぶれて、立つことすらできない僕のすぐ側に、
ただ目をつむり、ただ、ただ座って、
いつものように
月光の中で、僕の身体に手のひらをあてるだろう。
 
shine.










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水のない東カナルには   木村ユウ
 
 
水路の音が好きだった。
だから水のなくなったこの町から僕は出ていく。
 
五月、そして六月の美しさ。
そこには水があり、
死に向かって走り続けていることを、
誰も知らなかったから。
 
いつも夏の終わりには
たにしと赤いザリガニの死骸を僕は見つめる。
 
蝉だって喜びのうちに死んでいくというのに。
 
そうだろ? 美しいってそういうことだろう。
水のない水路に、雨がふってる。
 
火葬場のおじさんが
車に僕と骨壷を乗せたあと、
涙雨です
と、言った。
 
涙雨。
車のガラス越しに僕は外を見る。
温かい骨壷。
 
あの時も雨がふってた。
ここを出ていくときも、雨がふるといい。
一切の容赦なく。
 
僕は孤独など恐れてはいない。
ただ、友との別れが
辛いだけさ。
 
canal.







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クールズ(足)   木村ユウ
 
 
水路にそって、風に吹かれ歩いた。
県道は車がうるさくて(特に、トレーラーが修復に乗り上げる音)
胸がつぶれそうになるので、
青々とした稲の、
水音の聞こえるこの道を、僕はよく歩く。
 
この先の川は、僕の言うことをなんでも聞いてくれる。
だから時々泣くことがあった。
そういうときは不思議と帰り道の
散歩をしている人に声をかけられた。
僕も笑いかける。
きっと
話し終わった後は気持ちがゆっくりしているからだろう。
普段は僕は、
人が近づかないようにしているらしいから。
 
僕は幸福について考えはするけれど、
べつにそうなりたいわけでもなんでもないんだ。
ただ君がいなくなる前から、
君がこんなふうに感じていなければいいなと思った。
 
虚しいまま死ぬのは嫌だって。
 
 
僕が外に出られる足をなくしてから、
アパートで君と何年過ごしたんだっけね?
部屋に入ってくる陽の角度で
時間が過ぎるのをただ待っていた。
電話の音や大きな音が苦手になった。
 
アメリカ・ザリガニが水路の中にいるのが見える。
タニシが水の底をはったあと。
編み目模様。
ほら、と僕は指を差す。
 
水田のうえを風が去っていく。
君がその目で話しかける。
忘れたの?
 
おととしだっけ
雑貨屋の外に店で使っていた大きな本棚、貼り紙には
どうぞご自由に。
汗をかきながらアパートまで運んで、
部屋中の家具を動かしたこと。
巻き尺を片手に、おい、これ、冷蔵庫をどうしようか?
それから、
毎日いろんなものを食べて──
お布団の中で、伸びをしたじゃない。
 
crus.







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気配   木村ユウ
 
 
まだあたたかい君を抱いて
芝の横の歩道の、アスファルトの上で、
僕はただ
 
‥‥わからない。
きっと君に話しかけていた。
夕方の長い光線で
僕と君はフィルムの中にいるみたいだ。
音がなんだかぼやっとして聞こえないのも、
フィルムの中と同じだ。
もうひとつ似ている光景があるけれども、
それは、言いたくない。
 
 
君とはたしか捨てられたように出会ったんだったよね。
僕の脇の下の匂いが好きだなんて、
初めはびっくりしたけど、
僕はこうして君の最後の
匂いをかいでる。
 
momo.







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ヒナゲシの花   木村ユウ
 
 
「お水飲む?」「ううん」「なにか飲みもの買ってこようか」
「じゃあお水をください」
華代子は僕のみたこともない大きな冷蔵庫を開けピッチャーを出し棚から
薄いグラスを僕の前に置いた。
ピッチャーからそのグラスに水を注いだ。
僕はそれを少しの間みていた。
そしてちょっとうつむき加減に左右をみた
わからないけど、華代子は僕のその様子をピッチャーに片手を添えて立ったままみていた。
指がきれいだった。
僕はグラスに手を伸ばし、口につけた。
グラスがテーブルからはなれて口につくまでに、一瞬だけどぎこちなく揺れた。
僕は一口水を飲んだ。
そのあとグラスの行き先をどうすればいいのかわからなかった。
華代子は立ったままそれをずっとみていた。
「変な味?」
華代子は僕の持っているグラスを取り上げて少し口に入れた。
そして大きな目をくるくると左右に振って、
わかんない、という表情で僕にグラスを返した。
 
「さて、今宵の晩餐は海の幸といきますかな? ご主人。
んんん? どうされますかな?」 
 
あの時も道端にはヒナゲシの花が揺れていた。
朝に咲いた花が、夕方に散るのをみた。
アスファルトに落ちたオレンジ色の花びらを、
僕は触ることができなくて、そこにしゃがんでいた。
華代子に渡してあげたかったのに。
急いで持って帰り、あの家に。
 
Long-headed poppy.







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影   木村ユウ
 
 
体に椿の匂いが残る。
僕は暗い坂道を上っていく。
 
 人生は、これだけ?
 
僕はヘッドライトに照らされている。
ヘッドライトはすぐさま通り過ぎていく。
でもすぐにヘッドライトは、やってくる。
君は言う。
これだけ?
 
椿。
 
僕は言う。
僕らが歌を歌っていたのは、遠くだよ。
明日のことは何も知らず、
僕に言えることは何もなく、
ただいつもの朝がきて君に会いたい。
 
sign.







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収録の詩集「珊瑚」

mail: kimura@poetry.ne.jp

  

 
 
 
 
 詩集発売中 

 クールズ(足)

 ●500 円(税込)
 
 
 >>詳しく

 
 
 
morinaga.
boku.
inoue.
takemoto syouko.
tamami.
miku.
gonta3.
joel. thanks
 
 
 
 
 change the world "コーラル"
 

 
 
 c.t.w "エイプリィル・デイズ"
 

 
エスクァイア   木村ユウ
 
 
喉から先だけで笑ってみると
少しかわいた
笑い方になるものだよね
どうしたらいいのかわからないぶん、
泣くことよりつらいかもしれない
だって、
笑うのって止められやしないものだろ?
本当は
 
お腹から笑ってごらんよ
誇りを
持って生きていくという言葉
でもその方法を
知っている人があまりに少ないから
死んだ人間も大勢だな
エスクァイア誌にも書いてないしね
 
自尊心にはうんざりしてる
だから僕は、僕を助けてくれた人たちのことを考えるよ
そうやって
毎日テーブルの上をきれいに拭いてる
 
Esq.







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湯気の上がる場所   木村ユウ
 
 
ベッドから降りると僕は
老人みたいな歩き方で(頭も老人みたいな調子で)
暖房を入れる
そしてこの部屋で唯一と言っていい居場所に腰を下ろす
とても大きな机を部屋の真ん中に置いてあるせいで
その机の前にしか僕が落ち着ける場所がないのだ
ベッドはあるけれど。

部屋が暖まるまでのあいだ
僕は足を組んで
体を小さく揺すっている
こういうところも老人みたいだ
机の上にはウィスキーの残ったグラス
それを向こうへ手で押しやる
僕はそこにあった手紙をまた封筒から出して読む
読み返す途中で
湯を沸かしていないことに気付き
手紙をもとに戻す
僕は朝に湯を沸かすのが好きなのだ
パンをちゃんと焼いてバターを付け
それを手でちぎって食べる
パン。
特に朝パンが食べたいというわけじゃない
湯気の上がっているところだとか音だとか
そういった生活の匂いがしていたほうが
素敵だとは思わない?
僕は素敵だと思う
たとえ沸かされた湯は使われず
焼かれたパンがオーブンのなかで

冷えていったとしても
 
Oven.








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